スキトラ(スキルトランスファー)の計画と進め方|担当者の交代・システムの移管で仕事を渡しきる4つの段階

スキトラ(スキルトランスファー)を、担当者の異動・退職やシステムの保守の移管で使う計画と進め方として解説。計画で決める5つのこと、見て学ぶから一人で回すまでの4つの段階、完了の判定、つまずきやすい点、受け手が去ったあとも使える記録の残し方までまとめました。
目次
1.スキトラ(スキルトランスファー)とは|引き継ぎ・OJTとの違い
1-1.引き継ぎ書を渡すだけでは終わらない理由
2.スキトラが必要になる場面
3.スキトラの計画で決める5つのこと
3-1.渡す範囲は、頻度で並べると漏れに気づける
3-2.完了の条件は、作業で書く
4.スキトラの進め方|4つの段階
4-1.1. 見て学ぶ(渡し手がやり、受け手が見る)
4-2.2. 一緒にやる(二人で手を動かす)
4-3.3. 受け手がやる(受け手がやり、渡し手が見る)
4-4.4. 一人で回す(渡し手は質問を受けるだけ)
4-5.想定の例|社内システムの保守担当が異動する場合
5.スキトラの完了をどう判定するか
6.スキトラでつまずきやすい点
6-1.渡し手の時間が取れない
6-2.口頭で聞いたことが、どこにも残らない
6-3.資料が今の中身と合っていない
6-4.受け手が一人だけ
7.当社がシステムの引き継ぎで行っていること
8.スキトラの記録を、受け手のあとも使える形に残す
9.まとめ|スキトラは、受け手が一人で回せるまでが仕事
担当者の異動や退職が決まったとき、あるいはシステムの保守を別の会社や社内のチームへ移すとき、「スキトラの期間を取ってください」と言われて、何をどこまでやれば終わりなのかが分からず困った経験のある方は多いのではないでしょうか。引き継ぎ書を作って説明会を開いたのに、渡し手がいなくなった翌月から受け手の手が止まる、という話もよく聞きます。
その原因の多くは、スキトラを「説明する場」として扱い、受け手が一人で仕事を回せるかどうかを確かめないまま終えてしまうことにあります。説明を聞いて分かったつもりになることと、実際に一人で判断できることのあいだには、思った以上の距離があるからです。
スキトラは、渡す範囲と完了の条件を先に決め、見て学ぶ段階から受け手が一人で回す段階まで、順に役割を入れ替えていくと渡しきれます。この記事では、担当者の交代やシステムの移管の場面を念頭に、計画で決める5つのこと、4つの段階の進め方、完了の判定、つまずきやすい点、受け手が去ったあとも使える記録の残し方を順に説明します。
スキトラ(スキルトランスファー)とは|引き継ぎ・OJTとの違い
スキトラは、スキルトランスファー(skill transfer)を略した言葉で、ある人が持っている仕事のやり方や判断の仕方を、別の人へ移すことを指します。人材育成の文脈では技能の伝承と同じ意味で使われ、IT の現場では、システムの運用や保守を別の担当者や会社へ移すときの期間や作業を「スキトラ」と呼ぶことがよくあります。
業務の引き継ぎとの違いは、ゴールの置き方にあります。引き継ぎは、担当と資料を渡すところまでを指すことが多いのに対し、スキトラは、受け手が渡し手と同じように仕事を回せる状態になるところまでを含めて考えます。新人を育てる OJT とも似ていますが、OJT が時間をかけて人を育てることを目的にするのに対し、スキトラは決まった期限までに、決まった範囲を渡しきることが目的になります。
引き継ぎ書を渡すだけでは終わらない理由
引き継ぎ書には、手順や連絡先のように書き出せることは載せられますが、「この症状のときはまず何を見るか」「この取引先からの依頼は、どこまでなら自分で決めてよいか」といった判断の部分は、書いた本人が当たり前だと思っているほど抜け落ちます。こうした言葉になりにくい知識は暗黙知と呼ばれ、説明を聞くだけでは移らず、実際の場面で一緒に手を動かしたときに初めて表に出てくることが多いものです。
引き継ぎ書の項目と書き方は「業務引継書のテンプレート」で、暗黙知の考え方は「暗黙知とは」で詳しく紹介しています。この記事では、引き継ぎ書を作ったあと、それを使って実際に仕事を渡しきるまでの進め方を扱います。
スキトラが必要になる場面
スキトラの進め方は、誰から誰へ、何を渡すのかによって、気をつける点が変わります。よくある場面を、渡し手と受け手、注意する点で並べると次のようになります。
場面 | 渡し手 → 受け手 | 特に気をつける点 |
担当者の異動・退職 | 社内の担当者 → 後任 | 渡し手がいる期間が限られる。最終日までに一人で回せるかを確かめる |
システムの保守の移管 | 今の保守会社 → 新しい会社や社内 | 渡し手の協力の度合いが契約や関係に左右される。資料と権限を先にそろえる |
外注していた運用の内製化 | 外部の会社 → 社内の担当 | 社内の受け手が、ほかの仕事と兼ねていることが多い。時間を先に押さえる |
新しいシステムの導入 | 導入した会社 → 社内の利用部門 | 操作だけでなく、困ったときに誰に聞くかまで決めておく |
どの場面でも共通するのは、渡し手がいなくなる日、あるいは関わりが薄くなる日が決まっていることです。その日から逆算して計画を立て、途中で渡しきれているかを確かめながら進めることが、スキトラを成功させる前提になります。
システムの保守を別の会社へ移す場面は、名義や契約の整理も絡むため、「システム保守の移管とブラックボックスからの脱却」で順番を詳しく説明しています。
スキトラの計画で決める5つのこと
スキトラを始める前に、次の5つを決めて、渡し手と受け手、それぞれの上司のあいだで同じ紙を見られるようにしておきます。ここが曖昧なまま始めると、渡し手は「説明はした」、受け手は「まだ分からない」と、終わりの認識がずれたまま期限を迎えてしまいます。

決めること | 中身 | 決まっていないと起きること |
1. 渡す範囲 | 業務やシステムの一覧と、それぞれの頻度(毎日・毎月・毎年・まれ) | 年に一度の作業や、めったに起きない障害の対応が漏れる |
2. 受け手 | 主に受ける人と、その人が休んだときに代わる人 | 受け手が一人だけで、その人が休むとまた止まる |
3. 期間と時間の確保 | 渡し手がいる最終日と、週に何時間をスキトラに充てるか | 通常の仕事に押されて、スキトラの時間が後回しになる |
4. 完了の条件 | 受け手が一人でできたと言える作業と、その確かめ方 | 終わりが決まらず、説明会を開いただけで終わる |
5. 記録の置き場 | 引き継ぎ書、質問と答え、手順の動画などをどこに残すか | 聞いたことが個人のメモに散り、次の人に届かない |
渡す範囲は、頻度で並べると漏れに気づける
範囲を洗い出すときは、業務の名前を並べるだけでなく、それぞれがどれくらいの頻度で起きるかを書き添えると漏れに気づきやすくなります。毎日の作業は期間中に何度も経験できますが、月末の締めや年に一度の更新、まれに起きる障害の対応は、期間中に一度も起きないまま渡し手がいなくなることがあるからです。
頻度の低い作業は、期間中に起きなければ、手順を一緒に読み合わせたうえで、過去の記録やメールをたどって「前回はどう判断したか」を聞いておきます。システムの場合は、設定の画面やログを実際に開いてもらい、どこを見ればよいかを受け手が自分で確かめておくと、いざというときに迷いません。
完了の条件は、作業で書く
完了の条件は「理解した」ではなく、「受け手が一人で月次の締めを終えた」「受け手が一人で障害の一次対応を行い、渡し手は横で見ているだけだった」のように、作業と確かめ方で書きます。そうすると、渡し手も受け手も上司も、どこまで来ているかを同じ物差しで話せるようになります。
スキトラの進め方|4つの段階
計画が決まったら、渡し手と受け手の役割を少しずつ入れ替えながら進めます。IT の運用の引き継ぎでは、受け手が渡し手の作業を横で見る段階と、反対に受け手が作業して渡し手が横で見る段階を分けて進めるやり方がよく使われます。ここでは、それを4つの段階に分けて説明します。

1. 見て学ぶ(渡し手がやり、受け手が見る)
最初は、渡し手がいつもどおりに仕事をし、受け手は横で見ながら、気づいたことや分からなかったことを書き留めます。このとき渡し手には、手を動かしながら「今、何を見て、なぜそうしたか」を声に出してもらうと、引き継ぎ書に書かれていない判断の部分が表に出てきます。
2. 一緒にやる(二人で手を動かす)
次に、同じ作業を二人で分けて進めます。受け手が一部を担当し、迷ったところはその場で渡し手に聞くようにすると、受け手は自分がどこで止まるのかを知ることができ、渡し手も、自分が当たり前だと思っていた判断に気づきます。
3. 受け手がやる(受け手がやり、渡し手が見る)
三つ目の段階では、役割を入れ替えて、受け手が主になって作業し、渡し手は横で見て、求められたときだけ答えます。ここで初めて、受け手が一人でできない所がはっきりするので、その所は手順や引き継ぎ書に書き足し、必要なら二つ目の段階に戻って練習します。
4. 一人で回す(渡し手は質問を受けるだけ)
最後は、受け手が一人で作業し、渡し手は離れた所から質問を受けるだけにします。渡し手がまだ社内にいるうちにこの段階を経験しておくと、受け手は「聞けば答えが返ってくる」安心感のある中で、本番と同じ状況を練習できます。この段階で出た質問は、そのまま次の人のための記録になります。
想定の例|社内システムの保守担当が異動する場合
たとえば、こういう場面を考えてみます。社内の販売管理システムの保守を一人で担ってきた担当者が、別の部署へ異動することになったとします。まず、毎日の確認、毎月のデータの締め、年に一度の利用者の見直し、過去に起きた障害の対応、という形で範囲を頻度ごとに並べ、受け手と、その人が休んだときの代わりを決めます。
毎日の確認は一つ目から四つ目の段階までを期間中に何度も繰り返せますが、年に一度の見直しは時期が合わないため、手順を読み合わせ、前回の記録を一緒にたどっておきます。最後の週は、受け手が一人で毎日の確認と月次の締めを行い、異動先の渡し手には質問だけを送る形にして、その質問と答えを記録に残します。
スキトラの完了をどう判定するか
完了は、計画で決めた条件に照らして、渡し手と受け手、それぞれの上司で確かめます。一覧の業務ごとに、四つ目の段階を経験したか、頻度の低い作業は読み合わせと記録の確認を済ませたか、を印で付けていくと、残っている所が一目で分かります。
すべてを期限までに終えられないこともあります。その場合は、終わっていない業務と、その業務で困ったときに誰に聞くか(渡し手の異動先、保守会社、社内のほかの担当者など)を書き出して、受け手と上司が持っておきます。終わっていないことを隠さずに残しておくほうが、あとで受け手が一人で抱え込むよりも、会社にとっての損は小さくなります。
スキトラでつまずきやすい点
スキトラがうまくいかない場面には、いくつか決まった形があります。始める前に、自分たちの状況に当てはまるものが無いかを見ておくと、手を打ちやすくなります。
渡し手の時間が取れない
渡し手は、通常の仕事に加えて、後任の準備や異動先の準備を抱えていることがほとんどです。スキトラの時間を「空いた時間で」とすると、ほぼ確実に後回しになるので、週の中で時間を先に押さえ、上司が渡し手の通常の仕事を減らしておくことが欠かせません。
口頭で聞いたことが、どこにも残らない
一緒に手を動かす段階では、その場の会話で多くのことが伝わりますが、それを書き留めないと、受け手の記憶にしか残りません。受け手が休んだり、さらに次の人へ渡したりするときに、同じことを一から聞き直すことになるので、質問と答えは短くてよいので、決めた置き場に残していきます。
資料が今の中身と合っていない
引き継ぎ書や手順書が古く、実際の作業や画面と合っていないことは珍しくありません。資料と実際が違う所を見つけたら、その場で資料を直すか、少なくとも「この部分は古い」と書き添えて、受け手が古い資料を信じて迷わないようにします。
受け手が一人だけ
受け手を一人だけにすると、その人が新たな属人化の起点になります。主に受ける人とは別に、代わりに対応できる人を一人決め、少なくとも記録の置き場と主な手順は共有しておくと、次の交代のときに同じ苦労を繰り返さずに済みます。属人化そのものの解き方は「属人化を解消する手順」で紹介しています。
当社がシステムの引き継ぎで行っていること
当社は、他社が作ったシステムを引き受ける仕事の中で、渡し手から十分に話を聞けない場面にもよく出会います。前の会社がすでに関わっていない、あるいは関わる時間が限られているときは、手元にあるソースコードと資料をAIで読んで全体を洗い出し、分かったことを事実・推測・未確認の3つに分けて整理してから、渡し手や社内の担当者に確かめたい所を絞って聞くようにしています。

この分け方は、システムに限らず、人から人へ仕事を渡すスキトラにも使えます。受け手が聞いたことや資料から読み取ったことを、確かめた事実、たぶんそうだという推測、まだ分からない未確認に分けて書き留めておくと、渡し手がいるうちに何を聞けばよいかがはっきりし、限られた時間を未確認の所に集中して使えます。進め方の全体は「他社が作ったシステムの引き継ぎ」で紹介しています。
AIにソースコードや社内の資料を読ませる場合は、中にパスワードや取引先の情報が含まれていることもあるので、入力した内容が学習に使われない設定かどうかを先に確かめてください。気をつける点は「生成AIの社内ルール」でまとめています。
スキトラの記録を、受け手のあとも使える形に残す
スキトラで集めた引き継ぎ書、質問と答え、手順は、受け手のためだけの資料ではありません。受け手もいずれ異動や退職をするので、そのときに次の人が同じ記録を使えるかどうかで、次のスキトラの手間が大きく変わります。
そのためには、記録を個人のフォルダではなく、決めた置き場に残し、業務の名前で探せるようにしておくことが出発点になります。そのうえで、社内の資料から答えるAIに読み込ませておくと、「この作業のときは何を見ればよいか」と聞いたときに、元の資料の該当の所を示しながら答えが返ってくるので、記録の存在を知らない人にも届くようになります。作り方は「社内資料で答えるAIの作り方」で紹介しています。
まとめ|スキトラは、受け手が一人で回せるまでが仕事
スキトラは、説明会を開いて引き継ぎ書を渡したところでは終わらず、受け手が一人で仕事を回せることを確かめて、初めて終わります。範囲・受け手・期間・完了の条件・記録の置き場の5つを先に決め、見て学ぶ段階から一人で回す段階まで役割を入れ替えながら進めると、渡し手がいなくなったあとに手が止まる場面を減らせます。
- 渡す範囲は頻度(毎日・毎月・毎年・まれ)と一緒に洗い出す
- 完了の条件は「理解した」ではなく、作業と確かめ方で書く
- 見て学ぶ → 一緒にやる → 受け手がやる → 一人で回す、の順に役割を入れ替える
- 聞いたことは事実・推測・未確認に分け、未確認の所を渡し手がいるうちに聞く
- 質問と答えは決めた置き場に残し、次の交代でも使える形にする
デイワンでは、他社が作ったシステムの引き継ぎや保守の移管で、資料やソースコードを読み解いて全体を洗い出すところから、引き継いだあとの保守まで承っています。前の担当者や会社から十分に話を聞けずにお困りの方は、お気軽にご相談ください。
あわせて読みたい:後進の育成とは?育たない本当の理由、OJT研修とは?進め方の4段階
よくある質問
- スキトラとは何の略ですか。
- スキルトランスファー(skill transfer)の略で、ある人が持っている仕事のやり方や判断の仕方を、別の人へ移すことを指します。IT の現場では、システムの運用や保守を別の担当者や会社へ移すときの期間や作業を指して使われることがよくあります。
- スキトラと引き継ぎは何が違いますか。
- 引き継ぎは担当と資料を渡すところまでを指すことが多いのに対し、スキトラは受け手が渡し手と同じように仕事を回せる状態になるところまでを含めて考えます。引き継ぎ書はスキトラの材料の一つです。
- スキトラの計画では何を決めればよいですか。
- 渡す範囲(頻度つき)、受け手と代わりの人、期間と週に充てる時間、完了の条件、記録の置き場の5つです。渡し手・受け手・上司が同じ紙を見られるようにしておきます。
- スキトラが終わったかどうかは、どう判断しますか。
- 「理解した」ではなく、受け手が一人で作業を終えられたかで判断します。業務ごとに、受け手が一人で回す段階を経験したか、頻度の低い作業は読み合わせと記録の確認を済ませたかを確かめます。
- 期限までにスキトラが終わらないときは、どうすればよいですか。
- 終わっていない業務と、その業務で困ったときに誰に聞くか(渡し手の異動先・保守会社・社内のほかの担当者など)を書き出し、受け手と上司が持っておきます。終わっていないことを隠さずに残すほうが、あとの損が小さくなります。
次に読む記事

炎上プロジェクトの立て直し方|発注者が最初にやる火消しの4つと、外に頼むときの判断
記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






