システム保守の移管とブラックボックスからの脱却|ベンダーロックインを外す順番と進め方

今の開発会社にしか直せない、仕様書が無くて中身が分からない。そんなシステムの保守を別の会社へ移す(保守移管)ために、ベンダーロックインの3つの原因の切り分け方と、名義・中身・契約を外していく順番、今の会社への頼み方をまとめました。
目次
1.保守移管とは。ブラックボックスとベンダーロックインの関係
2.一社にしか直せなくなる3つの原因
2-1.中身が分からない(仕様書が無い・古い)
2-2.名義と権限が相手にある
2-3.契約が移管を想定していない
3.ロックインかどうかを確かめる表
4.脱却の進め方|外す順番
4-1.1. 名義と権限を自社に寄せる
4-2.2. 中身を見える形にする
4-3.3. 移管の段取りを決める
4-4.4. 保守を引き継ぐ
5.今の会社への頼み方
6.移管で気をつけること
7.想定の例|在庫管理のシステムを別の会社へ移す
8.移管したあと、次のロックインを作らない
9.当社の保守移管の進め方
10.保守移管とベンダーロックインのよくある質問
10-1.仕様書が無くても、保守を移せますか?
10-2.今の会社に何を頼めばいいですか?
10-3.今の会社が引き継ぎに応じてくれない場合は?
10-4.保守を移すときに、作り直しは必要ですか?
10-5.立て直しではなく、保守だけでも頼めますか?
11.まとめ|保守移管は、名義と権限から外していく
12.FAQ 案(microCMS の FAQ の欄に入れる)
業務のシステムの保守を同じ開発会社に任せて何年も経つと、少し直すだけでも時間がかかる、見積もりの根拠がよく分からない、と感じる場面が増えてきます。別の会社に頼み替えようとしても、「仕様書が無いので、中身を見ないと分からない」と言われ、結局は今の会社に頼み続けるしかない、という状態になっている会社は少なくありません。
この、中身が外から見えないシステムを「ブラックボックス」、特定の会社にしか直せず抜け出せない状態を「ベンダーロックイン」と呼びます。どちらも、システムそのものが悪いというより、中身と名義と契約が一社に集まったまま時間が過ぎたことで起きている状態です。
抜け出す順番は、名義と権限を自社に寄せ、中身を見える形にし、それから保守を移す、の順です。いきなり作り直しを考える前に、何が一社に集まっているのかを切り分ければ、今のシステムを動かしたまま保守だけを別の会社へ移せることが多くあります。
保守移管とは。ブラックボックスとベンダーロックインの関係
保守移管とは、システムを動かし続けるための保守(不具合の直し・小さな改修・サーバーや部品の更新など)を、今の会社から別の会社へ移すことです。システムを作り直すのではなく、今あるものを引き継いで面倒を見る相手を替える、という点がリニューアルとの違いです。
ブラックボックスとベンダーロックインは、移管を難しくする2つの面だといえます。中身が分からないから他社が見積もれず、他社が見積もれないから今の会社に頼み続け、頼み続けるあいだに資料はさらに古くなる、という形で、両方が互いを強め合っていきます。
保守を断られた、作った人がもういない、という場面からの引き継ぎは「他社が作ったシステムの引き継ぎ|作った人がいない・保守を断られたときの進め方」で、開発会社と連絡が取れなくなった場面は「開発会社・制作会社と連絡が取れないときに最初の1週間でやること」で詳しく書いています。この記事は、今の会社とはまだ付き合いがあり、そこから抜け出したい場面を中心に扱います。
一社にしか直せなくなる3つの原因
一社にしか直せない状態は、原因で分けると「中身」「名義と権限」「契約」の3つに分かれます。どれが原因かによって外し方が違うため、まずは自社のシステムがどれに当たるのかを見ておくことが大切です。

中身が分からない(仕様書が無い・古い)
いちばん多いのは、仕様書が最初から無い、あるいは作ったときのまま更新されておらず、今の中身と合っていない場合です。何年もかけて足された画面や処理の理由は、今の会社の担当者の頭の中にしか無く、その担当者が替わると、今の会社の中でさえ分かる人がいなくなることがあります。
名義と権限が相手にある
ドメインやサーバー、クラウドの契約が開発会社の名義になっていて、自社には管理画面に入る権限が無い場合もあります。この状態では、別の会社に保守を頼もうにも、その会社がシステムに触れる入口を自社から渡せないため、移管の話がそこで止まってしまいます。
契約が移管を想定していない
保守の契約に、契約が終わるときに何を渡してもらえるか(ソースコード・資料・管理の権限)が書かれていないこともよくあります。また、開発会社が独自に作った部品や、その会社が持つ製品の上でシステムが動いていると、その部分は契約が終わったあとも使い続けられるのかを、契約の中身から確かめる必要があります。
ロックインかどうかを確かめる表
次の6つの問いに答えていくと、3つの原因のうちどこが詰まっているかが見えてきます。分からない問いは「分からない」のままで構いません。分からないこと自体が、その所が一社に集まっているという手がかりになるからです。

問い | 当たる原因 | 「いいえ」「分からない」のとき |
ソースコードの最新版が自社の手元にあるか | 中身 | 今の会社に最新版の受け渡しを頼む |
今の中身と合った仕様書や資料があるか | 中身 | コードから仕様を書き起こす |
ドメイン・サーバー・クラウドは自社の名義か | 名義と権限 | 名義を自社に移す手続きを相談する |
自社の担当者が管理画面に入れるか | 名義と権限 | 自社の管理者の権限を作ってもらう |
契約が終わるときに何を渡してもらえるか、契約書に書かれているか | 契約 | 契約書を読み直し、判断は弁護士に相談する |
今の会社の製品や独自の部品に頼っている所があるか | 契約 | 使い続けられるかと、置き換える範囲を確かめる |
脱却の進め方|外す順番
外す順番は、名義と権限、中身、移管の段取り、保守の引き継ぎの4つの段です。名義と権限を先にするのは、それが自社の手元に無いと、次の会社が中身を調べることも、システムを動かし続けることもできないからです。

1. 名義と権限を自社に寄せる
まず、ドメイン、サーバー、クラウド、外部サービス(Google のアカウントなど)の名義と管理の権限を、自社の側に寄せます。今の会社との関係が続いているうちのほうが、名義の変更や、自社の担当者を管理者に加える手続きは頼みやすく、話もこじれにくいものです。
このとき、IDやパスワードをメールで送ってもらうのではなく、自社の担当者に新しく管理者の権限を作ってもらう形で受け取ってください。誰がいつ入ったのかが残り、移管のあとで今の会社の権限だけを外すこともできるようになります。
2. 中身を見える形にする
次に、ソースコードの最新版を受け取り、中身を見える形にします。仕様書が無い、古いという場合でも、ソースコードがあれば、どんな画面や処理があり、どのデータをどこに置いているかをコードから書き起こせます。
当社では、残っているソースコードをAIで解析して仕様を文書に書き起こし、そのうえでエンジニアが確かめています。AIは大量のコードを速く読めますが読み違えることもあるので、分かったことを事実・推測・まだ確かめていないことに分け、確かめていない所は社内の担当者や今の会社に聞くべきこととして一覧にします。
3. 移管の段取りを決める
中身がつかめたら、いつ、何を、どの順で移すかを決めます。契約の終わる日、今の会社が対応してくれる最後の日、新しい会社が保守を始める日を並べ、そのあいだに不具合が起きたときにどちらが対応するかを、前もって書面で決めておきます。
できれば、今の会社と新しい会社が並んで動く期間を置き、新しい会社が実際に小さな改修を1つ行ってみるのが安全です。契約の解約の申し出にいつまでという期限があることも多いので、契約書を見て、段取りを逆算しておいてください。
4. 保守を引き継ぐ
最後に、調べて分かった中身をもとに、新しい会社が保守と改修を引き継ぎます。作り直しは、引き継いで中身が見えてから、本当に要るかを考えれば十分です。移管と作り直しを同時に始めると、今のシステムでできていたことが新しい方で抜け落ちやすくなります。
今の会社への頼み方
今の会社に移管を切り出すときは、口頭だけで済ませず、渡してほしい物を一覧にして書面で頼むのが基本です。何をもらえば足りるのかがお互いに見えるので、受け渡しの漏れや「言った・言わない」を防げます。
渡してほしい物 | 確かめること |
ソースコードの最新版 | 本番で動いているものと同じ版か |
資料(仕様書・設計書・手順書) | 古い所があれば、どこが古いか |
ドメイン・サーバー・クラウドの名義と管理の権限 | 名義の変更か、自社の管理者の追加か |
本番の設定とデータの控え | 鍵やパスワードの受け渡し方 |
今残っている不具合と、対応中の作業 | 移管の日までにどこまで終えるか |
引き継ぎの作業そのものに費用がかかるかは、契約の中身によって変わります。契約に書かれていない作業を頼む場合は、費用と範囲を先に話し合っておくと、あとで行き違いになりにくくなります。
今の会社が引き継ぎに応じない、話がこじれそうという場合は、自分たちだけで進めず、契約書を持って弁護士に相談してください。当社のような開発会社が手伝えるのは技術の面で、権利や契約についての判断は弁護士の領分です。
移管で気をつけること
移管でよくつまずくのは、慌てて今の契約を先に切ってしまうことです。新しい会社がまだ中身をつかめていないうちに今の会社の対応が終わると、その間に起きた不具合を誰も直せなくなるので、解約は、新しい会社が保守を始められる見通しが立ってからにします。
もう1つは、前の会社が作ったコードの出来まで、新しい会社に保証してもらおうとすることです。新しい会社が引き受けられるのは、調べて分かった中身をもとに保守を続けることまでで、調べる前からあった不具合の責任までは負えません。当社も、前の開発会社が作ったコードの保証はお受けしていないので、その分は調査の結果を見ながら、直す所として一緒に決めていきます。
AIを使ったシステムでも、作った会社にしか直せない状態は同じように起きます。試しの段で止まってしまっている場合は「PoC止まりのAIを立て直すには」も参考にしてください。
想定の例|在庫管理のシステムを別の会社へ移す
ここからは想定の例です。実際の案件ではありません。
社内の在庫管理のシステムを、作った開発会社に長く保守してもらってきたものの、直しの返事が遅くなり、ほかの会社に相談しても「仕様書が無いので見積もれない」と言われた、という場面です。確かめる表に答えてみると、ソースコードの最新版は手元に無く、サーバーも開発会社の名義で、自社の担当者は管理画面に入れないことが分かりました。
この場合は、まず今の会社に一覧を付けて書面で頼み、サーバーに自社の担当者を管理者として加えてもらうことと、ソースコードの最新版と手元にある資料の受け渡しから始めます。受け取ったコードから仕様を書き起こして中身をつかみ、契約の終わる日から逆算して並んで動く期間を決め、その間に新しい会社が小さな直しを1つ試してから、保守を正式に移す、という順になります。
移管したあと、次のロックインを作らない
移管が終わったら、同じことを繰り返さないための形を最初から作っておきます。新しい会社に頼むときも、名義は自社、管理の権限は自社の担当者にも、ソースコードは自社の手元にも、という形にしておけば、将来また保守の相手を替えることになっても、今回ほど手間はかかりません。
- ドメイン・サーバー・クラウドは、最初から自社の名義で契約する
- 自社の担当者を管理者に入れ、外部の会社には別の権限を作って渡す
- ソースコードの最新版と、直したときの記録を、自社の手元にも残してもらう
- 契約が終わるときに何を渡してもらえるかを、保守の契約に書いておく
当社の保守移管の進め方
デイワンの引き継ぎ・立て直しでは、立て直しを伴わない、保守移管だけのご相談もお受けしています。進め方は、ご相談、現状の調査、保守の3つの段です。

ご相談では、いまのシステムと保守の状況をうかがい、資料と公開されている情報から、お引き受けできるかどうかをご回答します。現状の調査では、ソースコードと資料をAIで解析し、中身と権利と名義を確かめて、事実・推測・未確認を分けてご報告し、そのうえで保守・改修をお引き受けします。
相談の窓口はエンジニアでもある代表なので、話を持ち帰らずに、その場で技術の面から見通しをお話しできます。前の節の表で確かめた結果があると話が早く進むので、分かる所だけでも埋めてお持ちください。
保守移管とベンダーロックインのよくある質問
仕様書が無くても、保守を移せますか?
ソースコードが手に入れば、コードから仕様を書き起こして中身を確かめられます。分かったことと分からないことを分けて整理してから、保守を引き継ぐ形になります。
今の会社に何を頼めばいいですか?
ソースコードの最新版、手元にある資料、ドメイン・サーバー・クラウドの名義と管理の権限、本番の設定とデータの控え、今残っている不具合の一覧です。一覧にして書面で頼むと、受け渡しの漏れを防げます。
今の会社が引き継ぎに応じてくれない場合は?
契約に、契約が終わるときに何を渡すかが書かれているかを確かめ、話がこじれそうなときは弁護士に相談してください。権利や契約の判断は、開発会社ではなく弁護士の領分です。
保守を移すときに、作り直しは必要ですか?
作り直しを前提にする必要はありません。今のシステムを引き継いで中身が見えてから、直すか作り直すかを考えれば十分です。
立て直しではなく、保守だけでも頼めますか?
はい。当社では、保守移管だけのご相談もお受けしています。現状の調査で中身を確かめてから、保守をお引き受けします。
まとめ|保守移管は、名義と権限から外していく
一社にしか直せない状態は、中身・名義と権限・契約のどれかが一社に集まっていることから起きます。原因を切り分け、名義と権限を自社に寄せ、中身を見える形にしてから段取りを決めて保守を移せば、今のシステムを止めずに抜け出せます。
- まず6つの問いで、中身・名義と権限・契約のどこが詰まっているかを確かめる
- 名義と権限を自社に寄せてから、ソースコードを受け取り中身を見える形にする
- 解約は、新しい会社が保守を始められる見通しが立ってからにする
- 移管のあとは、名義・権限・ソースコードを自社の手元にも残す形にする
デイワンでは、保守を断られた、今の会社にしか直せない、というシステムの保守移管のご相談をお受けしています。お引き受けできるかどうかのご回答までは無料ですので、表の答えが途中でも、お気軽にご相談ください。
---
FAQ 案(microCMS の FAQ の欄に入れる)
1. Q: 保守移管とは何ですか?
A: システムを動かし続けるための保守を、今の会社から別の会社へ移すことです。作り直すのではなく、今あるシステムを引き継いで面倒を見る相手を替えます。
2. Q: 仕様書が無くても、保守を移せますか?
A: ソースコードが手に入れば、コードから仕様を書き起こして中身を確かめられます。分かったことと分からないことを分けて整理してから引き継ぎます。
3. Q: ベンダーロックインから抜け出すには、何から始めればいいですか?
A: ドメイン・サーバー・クラウドの名義と管理の権限を自社に寄せることから始めます。そのあとソースコードを受け取り、中身を見える形にしてから保守を移します。
4. Q: 今の会社が引き継ぎに応じてくれない場合は?
A: 契約が終わるときに何を渡すかが契約書に書かれているかを確かめ、話がこじれそうなときは弁護士に相談してください。
5. Q: 立て直しではなく、保守だけでも頼めますか?
A: はい。デイワンでは保守移管だけのご相談もお受けしています。お引き受けできるかどうかのご回答までは無料です。
よくある質問
- 保守移管とは何ですか?
- システムを動かし続けるための保守を、今の会社から別の会社へ移すことです。作り直すのではなく、今あるシステムを引き継いで面倒を見る相手を替えます。
- 仕様書が無くても、保守を移せますか?
- ソースコードが手に入れば、コードから仕様を書き起こして中身を確かめられます。分かったことと分からないことを分けて整理してから引き継ぎます。
- ベンダーロックインから抜け出すには、何から始めればいいですか?
- ドメイン・サーバー・クラウドの名義と管理の権限を自社に寄せることから始めます。そのあとソースコードを受け取り、中身を見える形にしてから保守を移します。
- 今の会社が引き継ぎに応じてくれない場合は?
- 契約が終わるときに何を渡すかが契約書に書かれているかを確かめ、話がこじれそうなときは弁護士に相談してください。
- 立て直しではなく、保守だけでも頼めますか?
- はい。デイワンでは保守移管だけのご相談もお受けしています。お引き受けできるかどうかのご回答までは無料です。
次に読む記事

炎上プロジェクトの立て直し方|発注者が最初にやる火消しの4つと、外に頼むときの判断
記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






