後進の育成とは?育たない本当の理由と、ベテランの判断を次に渡すためのデイワンの考え

後進の育成の意味と、後継者育成・部下育成との違いを整理したうえで、厚労省の調査から育成が進まない理由を読み解きます。ベテランの判断をどう次に渡すかについて、AIでの聞き取りを試した当社の考えと、始めるための4つの手順を紹介します。
「そろそろ後進の育成を」と言われても、ベテランは目の前の仕事で手一杯で、若手に教える時間はなかなか取れません。OJT や研修の計画を立てても、肝心の「あの人だから判断できていたこと」は渡らないまま、退職の日が近づいてくる、という悩みを持つ会社は少なくないはずです。
この記事では、後進の育成の意味を簡単に整理したあと、厚生労働省の調査から、育成が進まない理由を読み解きます。そのうえで、ベテランの判断をどう次に渡すかについて、聞き取りの道具を作り、AIで試してきた当社の考えをお伝えします。
当社の考えは、ベテランを「毎回教える人」から「聞かれたことに答え、確かめる人」に変えることです。教える人と時間が足りないなら、教える量を増やすより、ベテランの頭の中にある判断を、聞かれたら引ける形に変えていくほうが現実に合っていると考えています。
後進の育成とは|後継者育成・部下育成との違い
後進の育成とは、自分のあとに続く人に、仕事で身につけた知識や技能、経験を伝え、一人で仕事を任せられるように育てることです。「後進」は後から同じ道を進む人を指し、職場では後輩や若手、次の担当者がこれにあたります。
似た言葉との違いは、誰を、何のために育てるかにあります。
言葉 | 育てる相手 | 目的 |
後進の育成 | 後に続く人(後輩・若手・次の担当) | 自分が持つ知識や技能を渡し、仕事を任せられるようにする |
後継者育成 | 特定のポスト(社長・部門長など)を継ぐ人 | そのポストを引き継げるようにする |
部下育成 | 自分の部下 | 今の仕事で成果を出せるようにする |
後進の育成は、ポストよりも「仕事の中身」を渡すことに重心があります。中でも難しいのが、手順書には書かれていない判断を渡すことで、この記事はそこに絞って話を進めます。
後進の育成が進まないのは、教える人と時間が足りないから
厚生労働省が2026年7月31日に公表した「令和7年度 能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとした事業所が80.1%にのぼりました。問題点の内訳では「指導する人材が不足している」が59.5%で最も多く、「人材を育成しても辞めてしまう」51.6%、「人材育成を行う時間がない」45.5%と続いています。

同じ調査で、技能継承に問題があるとした事業所は44.2%で、製造業は65.8%、建設業は59.2%と高くなっています。技能継承の問題点を見ると、「意欲のある若者・中堅層の確保が難しい」74.5%に次いで、「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」が60.6%でした。「教える人材がいない」25.8%、「教える方と教わる方の年代やレベルの差が開きすぎていてコミュニケーションがうまくいかない」25.7%という声もあります。
調査の項目 | 割合 |
人材育成に何らかの問題がある事業所 | 80.1% |
問題点:指導する人材が不足している | 59.5% |
問題点:人材育成を行う時間がない | 45.5% |
技能継承に問題がある事業所 | 44.2% |
技能継承の問題点:伝承に時間がかかり円滑に進まない | 60.6% |
技能継承の問題点:教える人材がいない | 25.8% |
出典:厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』」調査結果の概要(2026年7月31日公表)
この数字から読み取れるのは、育成の方法が分からないことより、教える人と時間が足りないことのほうが大きな壁になっている、ということです。「人材育成の方法がわからない」と答えた事業所は10.0%にとどまります。やり方は分かっているのに、教える側の手が回らない、というのが多くの職場の実情だと考えています。
だとすると、研修の計画を厚くしたり、ベテランに「もっと教えてほしい」と頼んだりするだけでは、詰まりはほどけません。足りないものを増やす方向ではなく、教える側の負担そのものを変える方向で考える必要があります。
デイワンの考え1|ベテランが渡すべきなのは、手順より「判断」
ベテランの仕事を分けてみると、大きく3つの層があると当社は考えています。1つ目は手順で、何をどの順で行うかです。2つ目は手がかりで、そのとき何を見て、何を聞いていたかです。3つ目は決め手で、いくつかの選択肢の中から最後に何で決めたかです。

層 | 中身の例 | 残りやすさ |
手順 | 点検はこの順で回る、請求はこの画面で処理する | 手順書やマニュアルとして、たいてい残っている |
手がかり | いつもと違う音、相手の言い回し、数字の小さなずれ | 本人も意識していないことが多く、残りにくい |
決め手 | 「この条件がそろったら止める」「この相手には先に電話する」 | 聞かれない限り、言葉にならない |
手順は、どの会社にもある程度は残っています。後任が困るのは、例外が起きたときに何を見ればよいか、どこで止めればよいかが分からない場面で、それは手がかりと決め手の層にあります。言葉にしにくいこうした知識(暗黙知)については、「暗黙知とは?形式知との違いとSECIモデル」で詳しく書いています。
後進の育成というと「仕事のやり方を教える」と考えがちですが、本当に渡すべきなのは判断の層です。逆に言えば、手順の層は資料で渡し、ベテランの限られた時間は判断の層にだけ使う、という分け方ができます。
デイワンの考え2|判断は、書いてもらうより聞き取る
判断の層を渡そうとして、ベテランに「気をつけていることを書き出してください」と頼んでも、出てくるのは手順や心構えであることがほとんどです。本人にとって当たり前になっている判断は、白紙に向かって思い出せるものではないからです。
当社は、熟練者の判断を出来事に沿って聞き取る CDM(Critical Decision Method)という手法の考え方にならい、1つの場面について「何を見ていたか」「ほかに何を考えたか」「最後に何で決めたか」などを順に聞く方法を使っています。この聞き方で、どのくらいの知識が出てくるかを試しました。
試したのは、架空の食品工場の設備保全のベテランです。ベテラン役はAIが演じ、言葉になっていない知識を9つ持たせ、聞かれたときだけ思い出す設定にしました。そのうえで、聞き方を変えて、9つのうちいくつが出てくるかを比べています。
聞き方 | 出た | 一部 | 出ない |
6つの問いの表をベテランが自分で埋める | 1 | 4 | 4 |
AIが1回で聞き取る | 7 | 0 | 2 |
聞く幅を決めて、AIが5回に分けて聞き取る | 8 | 0 | 1 |
表を自分で埋める方法では、場面の名前は出ても、どんな音か、どこを見るかといった細かい手がかりが抜けました。AIが聞き取ると手がかりと決め手が具体的に出てきて、「判断の場面」「見立てが外れたこと」「時期と前ぶれ」のように幅を決めて分けて聞くと、9つのうち8つが出ました。
ベテラン役もAIで、聞き取る方法に有利な条件であり、それぞれ1回ずつの試しなので、実際の人で同じ差が出るかは確かめていません。それでも、判断の層は「書いてもらう」より「聞き取る」ほうが出てくるという手応えは、当社の考えの土台になっています。試しの中身とやり取りは「技術継承ができない理由と、ベテランが辞める前にAIで聞き取る方法」で紹介しています。
聞き手をAIにすると、教える側の負担も変わります。ベテランは質問に答えるだけでよく、まとめる作業はAIが受け持つので、「教える時間がない」という壁を少し下げられます。
デイワンの考え3|ベテランを「毎回教える人」から「聞かれて確かめる人」へ
聞き取った判断を資料にしても、それだけで後進が育つわけではありません。大事なのは、後進が困ったときに、まず資料に聞き、資料で答えられないものだけがベテランに届く流れを作ることだと考えています。

段 | 起きること |
1. 後進が聞く | 困ったら、まず社内の資料(またはそれをもとに答えるAI)に聞く |
2. 答えられない質問が残る | 資料に答えが無かった質問が、一覧に残る |
3. ベテランに聞き取る | 残った質問だけを、ベテランに聞き取る |
4. 確かめて資料に足す | ベテランが中身を確かめ、資料に足す。次からは資料が答える |
この流れでは、同じ質問が何度もベテランに来ることが減ります。ベテランの時間は、資料に無かった判断を話すことと、まとめられた中身が正しいかを確かめることに使われます。教える量は減るのに、渡る判断はむしろ増えていく、というのが当社の狙いです。
後進にとっても、ベテランの手が空くのを待たずに、まず自分で調べられることは大きな違いです。「こんなことを聞いてよいのか」と遠慮していた質問も、資料に聞くなら気軽にでき、答えられなかった質問はそのまま次の聞き取りの種になります。
集める側と使う側をつなぐ考え方は「ナレッジ共有が難しいのはなぜ?5つの理由と、AIで集めて使う仕組み」でも書いています。属人化をほどく手順全体は「属人化を解消する手順」が参考になります。
それでも、任せる経験は人がつくる
ここまで聞き取りと資料の話をしてきましたが、それで後進の育成がすべて片付くとは考えていません。判断は、知っているだけでは身につかず、自分で判断して、外れたり当たったりする経験を重ねて初めて自分のものになります。
ですから、資料やAIが受け持つのは「判断の材料を渡す」ところまでで、「判断を任せる」ところは人が設計する必要があります。小さな案件から任せ、結果を一緒に振り返り、任せる範囲を広げていく。この部分はAIで代えられない、上司やベテランにしかできない仕事です。
聞き取りで判断の材料を残しておくと、振り返りの質も変わります。「あのときベテランは何を見ていたか」が言葉になっていれば、後進は自分の判断と比べることができ、ベテランも「どこが違ったか」を具体的に伝えられるからです。
後進の育成を始める4つの手順
大きな育成計画から入るより、1つの業務で小さく回してみるほうが続きます。始めるときは、次の4つの手順がおすすめです。
1. 渡したい業務を1つ決める:退職や異動が近い人の業務、同じ質問が何度も来る業務など、失われると困るものから選ぶ
2. 手順と判断を分ける:手順は今ある資料で渡し、資料に無い「手がかり」と「決め手」を、聞き取りの対象にする
3. 場面ごとに聞き取る:困った出来事を1つ選び、何を見ていたか、最後に何で決めたかを聞く。1回で全部を出そうとせず、幅を決めて分ける
4. 任せて、振り返る:聞き取った内容を資料にし、後進に小さく任せる。答えられなかった質問と振り返りから、次に聞くことを決める
退職の日が決まっている場合は、業務の引き継ぎとあわせて進めると無駄がありません。聞き取りに使える項目とプロンプトは「業務引継書テンプレート|AIに聞き取らせて作る、後任が困らない書き方」に載せています。
まとめ|教える量を増やすより、判断を聞ける形にする
厚生労働省の調査では、人材育成の問題点として「指導する人材が不足している」が59.5%と最も多く、技能継承でも「伝承に時間がかかり円滑に進まない」が60.6%にのぼりました。後進の育成が進まない主な理由は、やり方よりも、教える人と時間の不足にあります。
- ベテランが渡すべきなのは、手順より「手がかり」と「決め手」の判断の層
- 判断は書いてもらうより、場面ごとに聞き取るほうが出てくる
- ベテランを「毎回教える人」から「聞かれて確かめる人」に変える
- 判断を任せる経験と振り返りは、人が設計する
当社が開発している「相棒AI」は、社内の資料から引用をつけて答え、答えられなかった質問を懸案として残すことで、どの判断がまだ言葉になっていないかを見えるようにします。ベテランの判断を次に渡す仕組みづくりにお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
あわせて読みたい:OJT研修とは?進め方の4段階、スキトラ(スキルトランスファー)の計画と進め方
よくある質問
- 後進の育成とは、どういう意味ですか?
- 自分のあとに続く後輩や若手、次の担当者に、仕事で身につけた知識や技能、経験を伝え、一人で仕事を任せられるように育てることです。
- 後進の育成と後継者育成の違いは何ですか?
- 後継者育成は社長や部門長など特定のポストを継ぐ人を育てることです。後進の育成は、ポストよりも仕事の中身を後に続く人へ渡すことに重心があります。
- 後進の育成が進まない一番の理由は何ですか?
- 厚生労働省の令和7年度 能力開発基本調査では、人材育成の問題点として「指導する人材が不足している」が59.5%と最も多く、「人材育成を行う時間がない」も45.5%でした。方法よりも、教える人と時間の不足が大きな壁になっています。
- ベテランの判断は、どうすれば後進に渡せますか?
- 書き出してもらうより、困った出来事を1つ選び「そのとき何を見ていたか」「最後に何で決めたか」と場面ごとに聞き取るほうが言葉になりやすくなります。1回で全部を出そうとせず、幅を決めて分けて聞きます。
- AIを使えば、後進の育成はAIに任せられますか?
- AIが受け持てるのは、ベテランの判断を聞き取ってまとめ、後進が調べられる形にするところまでです。判断を任せ、結果を一緒に振り返る経験は、上司やベテランが設計する必要があります。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






