暗黙知とは?形式知との違いとSECIモデルを分かりやすく解説|言葉にする聞き方まで

暗黙知とは何か、形式知との違い、SECIモデルの4つの段階を、仕事の例と図で分かりやすく解説します。暗黙知が言葉にならない理由と、AIに聞き取らせて言葉にする聞き方、何を聞くべきかの見つけ方まで紹介します。
目次
1.暗黙知とは|言葉にしにくい、経験から来る知識
1-1.暗黙知の2つの種類(技能と、ものの見方)
1-2.仕事の中の暗黙知の例
2.暗黙知と形式知の違い
2-1.形式知にすれば終わり、ではない
3.SECIモデルとは|知識が回る4つの段階
3-1.共同化から内面化まで
3-2.4つの段階を支える「場」
4.暗黙知が言葉にならない3つの理由
5.暗黙知を言葉にする聞き方
5-1.1回で全部は出ない。幅を決めて分けて聞く
6.何を聞けばいいかは、答えられなかった質問から見つける
7.ナレッジマネジメントを始める4つの手順
8.まとめ|暗黙知は、書いてもらうより聞き取る
9.FAQ 案(microCMS の FAQ の欄に入れる)
「ベテランが辞める前に、暗黙知を形式知にしておこう」と言われても、暗黙知とは何を指すのか、何から手を付ければよいのかは分かりにくいものです。マニュアルを書いてもらっても、出てくるのは手順ばかりで、肝心の「その人だからできていた判断」は残らなかった、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、暗黙知の意味と形式知との違い、知識が組織の中で回っていく様子を表した SECIモデルを、仕事の例と図で分かりやすく解説します。
暗黙知は、本人に書いてもらうより、具体的な場面を聞き取るほうが言葉になりやすい知識です。後半では、当社が聞き取りの道具を作る中で使っている問いの立て方と、何を聞けばよいかを見つける方法も紹介します。
暗黙知とは|言葉にしにくい、経験から来る知識
暗黙知とは、経験や勘にもとづいていて、言葉や数字で表しにくい知識のことです。ハンガリー出身の科学者・哲学者マイケル・ポランニーが著書『The Tacit Dimension』(1966年、邦訳『暗黙知の次元』)で示した考え方で、「私たちは、語ることができるより多くのことを知っている」という一文がよく引かれます。
たとえば、自転車の乗り方や、大勢の中から知り合いの顔を見分けることは、できるのに説明はできない知識の代表です。自転車に乗れる人でも、どの瞬間にハンドルをどれだけ切っているかを言葉で説明して、初めての人をそれだけで乗れるようにすることはできません。
暗黙知の2つの種類(技能と、ものの見方)
仕事の中の暗黙知は、一般に2つに分けて説明されます。1つは、手や体で覚えた技能で、機械の音の違いを聞き分ける、溶接の具合を手の感触で見る、といったものです。もう1つは、ものの見方や思い込みで、「この顧客はこういう言い方をしたら本気だ」「この数字が出たら、まず現場を疑う」といった、判断の土台になっている考え方です。
企業で困るのは、技能よりも、むしろものの見方のほうであることが少なくありません。技能は一緒に作業すれば少しずつ伝わりますが、判断の土台になっている見方は、本人も意識していないので、聞かれない限り表に出てこないからです。
仕事の中の暗黙知の例
仕事 | 暗黙知の例 | 形式知として残りやすいもの |
設備の保全 | 音やにおいの変化で、どこが傷み始めているかを見当づける | 点検表・取扱説明書 |
営業 | 商談の空気から、決めるのは誰かを見抜く | 提案書・商談の記録 |
経理・総務 | 例外の請求が来たとき、誰に聞けば早く片付くかを知っている | 処理の手順書 |
顧客対応 | 怒っている相手に、先に何を伝えれば落ち着くかが分かる | 対応マニュアル・FAQ |
システムの保守 | ログのこの行が出たら、本当の原因は別の所にあると分かる | 設計書・障害の記録 |
右の列のものは、どの会社にもたいてい残っています。足りないのは真ん中の列で、これがあるかどうかで、同じ資料を持っていても仕事の出来が変わります。
暗黙知と形式知の違い
形式知は、言葉や数字、図で表され、文書やデータとして人に渡せる知識です。マニュアル、手順書、設計書、FAQ などがこれにあたり、暗黙知とは、表し方と伝え方が大きく違います。

暗黙知 | 形式知 | |
中身 | 経験・勘・コツ・ものの見方 | 手順・数字・ルール・記録 |
表し方 | 言葉にしにくい | 言葉・数字・図で表せる |
伝わり方 | 一緒にやる・見て覚える | 読む・検索する |
ある場所 | 人の頭と体の中 | 文書・システムの中 |
伝わる早さ | 遅く、相手が限られる | 速く、多くの人に届く |
失われ方 | その人が辞めると失われる | 古くなると使えなくなる |
形式知にすれば終わり、ではない
暗黙知と形式知は、どちらが優れているというものではなく、行き来するものです。マニュアルを読んで仕事を覚えた人も、実際にこなすうちに自分なりのコツを身につけ、それはまた新しい暗黙知になります。
ですから「暗黙知をすべて形式知にする」ことを目指すと、うまくいきません。目指すのは、仕事に効く暗黙知を見つけて言葉にし、使われる形で残し、使った人がまた新しい気づきを足していける状態です。この行き来を説明したのが、次の SECIモデルです。
SECIモデルとは|知識が回る4つの段階
SECIモデル(セキモデル)は、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏が『The Knowledge-Creating Company』(1995年、邦訳『知識創造企業』1996年)で示した、組織で知識が生まれ、広がっていく様子を表した考え方です。暗黙知と形式知が、共同化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)の4つの段階を回りながら、個人から組織へ広がっていくと説明しており、名前はこの4つの頭文字から来ています。

段階 | 知識の動き | 仕事の例 |
共同化 | 暗黙知 → 暗黙知 | 新人がベテランの隣で作業し、やり方を体で覚える |
表出化 | 暗黙知 → 形式知 | ベテランの判断の決め手を聞き取り、言葉や図にする |
連結化 | 形式知 → 形式知 | 聞き取った内容と既存の手順書をまとめ、社内の資料にする |
内面化 | 形式知 → 暗黙知 | 資料を使って実際に仕事をこなし、自分のコツにする |
共同化から内面化まで
共同化は、言葉を介さずに経験を分け合う段階で、OJT や同行、職人の弟子入りがこれにあたります。ただし伝わる相手は近くにいる人に限られ、時間もかかります。
表出化は、暗黙知を言葉や図、例えにして形式知にする段階です。4つの中でいちばん難しく、ここが抜けると、知識は個人の中にとどまったままになります。
連結化は、形式知どうしを組み合わせて整理する段階で、資料をまとめる、データベースにする、といった作業です。社内での取り組みが、この段階だけで止まっていることはよくあります。
内面化は、形式知を実際に使って、自分のものにする段階です。読んだだけでは身につかず、使ってみて初めて、その人の新しい暗黙知になり、次の共同化へつながっていきます。
4つの段階を支える「場」
野中氏らは、こうした知識のやり取りが起きる場面を「場」と呼び、物理的な職場だけでなく、会議やオンラインのやり取りも含めて考えています。どの段階も、人が集まって話したり、一緒に作業したりする場が無ければ回らないという考え方で、ナレッジマネジメントを仕組みだけで進めようとしても続かない理由の1つがここにあります。
暗黙知が言葉にならない3つの理由
SECIモデルの中で、表出化がいちばん難しいのには理由があります。よくあるのは次の3つです。
1つ目は、本人が暗黙知を持っていることに気づいていない点です。長く同じ仕事をしていると、判断が当たり前になり、「特別なことはしていない」と感じるので、自分から書き出すことはまずありません。
2つ目は、「なぜそうしたのか」と聞くと、後から筋の通った理由が組み立てられてしまう点です。実際の判断に使っていた手がかりは、もっと具体的で小さなことであることが多く、理由を聞く形の質問では、そこにたどり着きにくくなります。
3つ目は、書く時間が取れない点です。暗黙知を残す必要が出てくるのは、退職や異動の前の、いちばん忙しい時期であることが多く、白紙のページに向かって思い出しながら書くのは負担が大きすぎます。
3つに共通しているのは、「本人に書いてもらう」ことを前提にしている点です。属人化を解消する進め方は「属人化を解消する手順と事例」で詳しく書いていますが、どの手順でも、表出化を本人まかせにしないことが要になります。
暗黙知を言葉にする聞き方
書いてもらう代わりに、具体的な場面について聞き取ると、暗黙知は言葉になりやすくなります。当社が開発している、対話から言葉になっていない知識を引き出すツール(co-think)では、熟練した人が判断した1つの場面について、次の6つを順に聞いていきます。これは、熟練者の判断を出来事に沿って聞き取る CDM(Critical Decision Method)という手法の考え方にならったものです。

- 手がかり:そのとき、何を見て(聞いて)いましたか
- ほかの選択肢:ほかにどんなやり方を考えましたか
- 決め手:最後に、何でそれに決めましたか
- 状況のつかみ方:そのとき、何が起きていると考えていましたか
- 想定との差:いつもと何が違いましたか
- 迷い:迷ったのはどこですか
ポイントは、「なぜ」より「何を見ていたか」「いつもと何が違ったか」で聞くことです。一般論として手順を聞くより、実際に困った出来事を1つ選んで起きた順に話してもらうほうが、例外のときの判断が具体的に出てきます。この聞き方をそのまま使えるプロンプトは「業務引継書テンプレート|AIに聞き取らせて作る、後任が困らない書き方」に載せています。
1回で全部は出ない。幅を決めて分けて聞く
当社では、この聞き方をAIの聞き手に任せたとき、どのくらいの暗黙知が出てくるかを試しました。架空の食品工場の設備保全のベテラン(AIが演じた)に、言葉になっていない知識を9つ持たせ、聞かれたときだけ思い出す設定にして、聞き方を変えて比べたものです。
聞き方 | 出た | 一部 | 出ない |
6つの問いの表を本人が埋める | 1 | 4 | 4 |
AIが1回で聞き取る(1版) | 7 | 0 | 2 |
AIが1回で聞き取る(直した2版) | 6 | 1 | 2 |
聞く幅を決めて5回に分ける | 8 | 0 | 1 |
表を自分で埋める方法では、場面の名前は出ても、どんな音か、どこに当てるかといった細かい手がかりが残りませんでした。一方、AIが聞き取った場合は手がかりと決め手が具体的に出ましたが、聞き方を直すと、出る知識が入れ替わるだけで、1回では全部が出ませんでした。
分かったのは、どの暗黙知が出てくるかは、その知識に当たる問いがあったかでほぼ決まるということです。そこで「判断の場面」「見立てが外れたこと」「やりがちな失敗」「時期と前ぶれ」「もしものとき」と幅を決めて5回に分けたところ、9つのうち8つが出ました。
ただし、ベテラン役もAIで、聞かれたら思い出す設定にしているので、聞き取る方法に有利な条件です。使ったAIは Claude だけで、それぞれ1回ずつの試しなので、実際の人で同じ差が出るかは確かめていません。試しのやり方とやり取りの中身は「技術継承ができない理由と、ベテランが辞める前にAIで聞き取る方法」で詳しく紹介しています。
何を聞けばいいかは、答えられなかった質問から見つける
聞き方が分かっても、もう1つ難しいのが「何を聞けばよいか」です。ベテランの頭の中にある知識は膨大で、全部を聞き取ることはできないので、仕事に効く暗黙知から順に見つける必要があります。
手がかりになるのは、社内で出た質問のうち、今ある資料では答えられなかったものです。答えられなかった質問は、資料が無いのか、古いのか、探し方の問題なのかを調べる入り口になり、その中には、知っている人の頭の中にしか無い知識が含まれています。

段 | やること |
1. 質問する | 社員が、社内の資料をもとに答えるAIに質問する |
2. 答えられなかった質問が残る | 資料に答えが無かった質問が、一覧に残る |
3. 知っている人に聞き取る | その答えを知っている人に、AIが質問して話を聞く |
4. 文書にして使う | 確かめたうえで社内の文書にし、次の質問ではそこから答える |
当社の「相棒AI」は、社内の資料から引用をつけて答え、資料に無い内容を引用として出さないように作っています。答えられなかった質問は懸案として残るので、管理する人は、何が聞かれ、何に答えられなかったかを見ることができます。そして当社が開発中の「Knowledge Hub」は、この懸案をもとに、知っている人にAIが質問し、答えをまとめて、承認を経て社内の文書にする仕組みです。
SECIモデルに当てはめると、懸案が表出化のきっかけになり、聞き取った内容を資料に足すのが連結化、その資料を使った答えで仕事をこなすのが内面化にあたります。集める側と使う側をつなぐ考え方は「ナレッジ共有が難しいのはなぜ?5つの理由と、AIで集めて使う仕組み」で詳しく書いています。
ナレッジマネジメントを始める4つの手順
暗黙知を残す取り組み(ナレッジマネジメント)は、大きな仕組みから入るより、1つの業務で小さく回してみるほうが続きます。始めるときは、次の4つの手順で進めるのがおすすめです。
1. 対象を1つ決める:辞める予定の人がいる業務や、同じ質問が何度も来る業務など、失われると困るものから選ぶ
2. 聞くことを見つける:社内の質問や、新人がつまずいた所を集め、今の資料で答えられないものを洗い出す
3. 聞き取って言葉にする:本人に書いてもらう代わりに、困った出来事を1つずつ、6つの問いで聞き取る。1回で終わらせず、幅を決めて分ける
4. 使って直す:聞き取った内容を資料にし、実際に使った人の疑問で次の聞き取りをする
4つ目の「使って直す」が抜けると、作った資料はすぐに古くなります。資料を作ることより、使われて直される流れを作ることのほうが大事だと考えています。
まとめ|暗黙知は、書いてもらうより聞き取る
暗黙知は、経験や勘にもとづく言葉にしにくい知識で、形式知と行き来しながら組織の中で回っていきます。SECIモデルの中でいちばん難しいのは暗黙知を言葉にする表出化で、本人に書いてもらう前提のままでは、ここで止まってしまいます。
- 暗黙知は、手順より「判断の手がかりと決め手」に多く含まれる
- 「なぜ」より「何を見ていたか」「いつもと何が違ったか」で聞く
- 1回で全部は出ないので、聞く幅を決めて分けて聞く
- 何を聞くかは、資料で答えられなかった質問から見つける
デイワンの相棒AIは、社内の資料から引用つきで答え、答えられなかった質問を残すことで、どの知識が足りないかを見えるようにします。ベテランの退職や属人化にお困りでしたら、お気軽にご相談ください。
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FAQ 案(microCMS の FAQ の欄に入れる)
1. Q: 暗黙知と形式知の違いを簡単に言うと?
A: 暗黙知は経験や勘にもとづく言葉にしにくい知識、形式知は言葉や数字で表せて文書として渡せる知識です。暗黙知は一緒にやることで、形式知は読むことで伝わります。
2. Q: 暗黙知の具体例には何がありますか?
A: 機械の音の違いで傷みを見当づける、商談の空気から決める人を見抜く、例外の請求を誰に聞けば早いか知っている、といった知識です。手順書には書かれていない、判断の手がかりや決め手がこれにあたります。
3. Q: SECIモデルとは何ですか?
A: 野中郁次郎氏と竹内弘高氏が示した、組織で知識が生まれ広がる様子を表した考え方です。共同化・表出化・連結化・内面化の4つの段階を、暗黙知と形式知が行き来しながら回ると説明しています。
4. Q: 暗黙知をすべて形式知にできますか?
A: すべてはできませんし、目指す必要もありません。仕事に効く暗黙知から順に見つけて言葉にし、使った人がまた気づきを足していける状態を作ることが大事です。
5. Q: 暗黙知を言葉にするには、何から始めればいいですか?
A: 本人に書いてもらう代わりに、困った出来事を1つ選び、「そのとき何を見ていたか」「いつもと何が違ったか」と聞き取ることから始めます。AIを聞き手にすると、聞く側の手間を減らせます。
よくある質問
- 暗黙知と形式知の違いを簡単に言うと?
- 暗黙知は経験や勘にもとづく言葉にしにくい知識、形式知は言葉や数字で表せて文書として渡せる知識です。暗黙知は一緒にやることで、形式知は読むことで伝わります。
- 暗黙知の具体例には何がありますか?
- 機械の音の違いで傷みを見当づける、商談の空気から決める人を見抜く、例外の請求を誰に聞けば早いか知っている、といった知識です。手順書には書かれていない、判断の手がかりや決め手がこれにあたります。
- SECIモデルとは何ですか?
- 野中郁次郎氏と竹内弘高氏が示した、組織で知識が生まれ広がる様子を表した考え方です。共同化・表出化・連結化・内面化の4つの段階を、暗黙知と形式知が行き来しながら回ると説明しています。
- 暗黙知をすべて形式知にできますか?
- すべてはできませんし、目指す必要もありません。仕事に効く暗黙知から順に見つけて言葉にし、使った人がまた気づきを足していける状態を作ることが大事です。
- 暗黙知を言葉にするには、何から始めればいいですか?
- 本人に書いてもらう代わりに、困った出来事を1つ選び、「そのとき何を見ていたか」「いつもと何が違ったか」と聞き取ることから始めます。AIを聞き手にすると、聞く側の手間を減らせます。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






