業務引継書テンプレート|AIに聞き取らせて作る、後任が困らない書き方

業務引継書のテンプレート(7項目)をコピーして使える形で紹介します。Excel の空欄を埋める代わりに、AIに前任者へ質問させて判断の決め手まで残す引継書の作り方と、そのまま使えるプロンプト、最終出勤日から逆算した進め方も解説します。
目次
1.業務引継書テンプレート|後任が困らない7つの項目
1-1.コピーして使える7項目の表
1-2.Excel や Word で作る前に知っておきたいこと
2.業務引継書に書く7つの項目
2-1.業務一覧(頻度・期限・所要時間)
2-2.手順と判断の決め手
2-3.進行中の案件と期限
2-4.関係者と連絡先
2-5.資料・データの保管場所
2-6.システムと権限(IDやパスワードは書かない)
2-7.よく聞かれること・迷ったときの判断
3.AIに聞き取らせて引継書を作る|コピーして使えるプロンプト
3-1.プロンプト
3-2.試してみた結果|表を自分で埋めた場合と比べる
3-3.聞き取りのコツ(何を見ていたか・困った出来事・新人の失敗)
3-4.使い方のコツ
3-5.社内の情報を入れるときの注意
4.業務引継書の作り方|最終出勤日から逆算する5ステップ
4-1.1. 業務を洗い出す
4-2.2. 優先順位を付ける
4-3.3. AIに聞き取らせて下書きを作る
4-4.4. 後任と一緒にやってみる
4-5.5. 受け取る側がチェックする
5.業務の引き継ぎはどこまで?何か月かかる?
5-1.どこまで書けばいい?
5-2.何か月かかる?
5-3.後任が決まっていないときは?
5-4.引き継ぎ資料がないときは?
6.業務引継書だけでは残らないもの
6-1.辞めるときにまとめて書くと抜ける理由
6-2.引き継ぎをSECIモデルの4つの段階で見る
6-3.他社が作ったシステムを引き継いで見えたこと
7.引き継ぎを「辞めるときの作業」から「日頃の仕組み」に変える
7-1.日頃の質問で、足りない知識を見つける
7-2.知っている人に聞き取って、文書に残す
7-3.まずは1つの業務で試す
8.まとめ|業務引継書は、AIに聞き取らせて会社の知識に変える
退職や異動が決まると、限られた日数の中で業務引継書を作ることになります。Excel のテンプレートを探して空欄を埋めていけば形にはなりますが、後任が本当に困るのは、手順の書き方ではなく「なぜこのやり方なのか」「いつもと違うときにどうするか」が分からない場面です。
前任者が社内にいるうちは電話やメールで聞けば済みますが、退職してしまえば聞ける人はいません。しかも引継書は担当が替わるたびにゼロから作られることが多く、同じ抜けが何度も繰り返されます。
この記事では、業務引継書に書く7つの項目を、コピーしてそのまま使える表でお渡しします。そのうえで、空欄を自分で埋める代わりに、AIに前任者へ質問させて、判断の決め手まで聞き出しながら引継書を作るプロンプトを紹介します。最終出勤日から逆算した進め方と、引継書を毎回ゼロから作らずに済む方法もあわせて解説します。
業務引継書テンプレート|後任が困らない7つの項目
業務引継書に書くことは、次の7つに整理できます。職種や部署が違っても、この7つがそろっていれば、後任が一人で業務を回し始めるための土台になります。
コピーして使える7項目の表
項目 | 書くこと | 記入例 |
1. 業務一覧 | 業務名、頻度(毎日・毎週・毎月・年1回)、期限、かかる時間 | 請求書の発行/毎月25日/約2時間 |
2. 手順と判断の決め手 | 手順に加えて、そのとき何を見て決めているか | 入金が遅れている取引先は、発行の前に営業担当へ状況を確かめる |
3. 進行中の案件と期限 | 途中の案件、相手と約束したこと、次の期限 | 取引先からの見積の回答/来月10日まで |
4. 関係者と連絡先 | 社内外の窓口と、何を誰に聞けばよいか | 経費の例外は経理の課長へ。メールより内線のほうが早い |
5. 資料・データの保管場所 | フォルダの場所と、最新版の見分け方 | 共有フォルダ「請求」。ファイル名の日付が新しいものが最新 |
6. システムと権限 | 使うシステムと必要な権限(IDやパスワードは書かない) | 会計システムの承認権限は、情報システムの担当へ申請する |
7. よく聞かれること・迷ったときの判断 | よくある質問と答え、例外のときの判断、新しく担当した人がやりがちな失敗 | 「請求書の宛名を変えてほしい」と言われたら、先に契約上の名義を確かめる |
表はそのままコピーして、Excel や Word、社内の共有ドキュメントに貼って使えます。記入例はあくまで書き方の目安なので、自社の業務に合わせて書き換えてください。
Excel や Word で作る前に知っておきたいこと
業務引継書は「エクセル」で検索して、無料のテンプレートを探す方が多いと思います。ただ、現場でよく見かけるのは、異動のときに Excel や文書にまとめて渡したものの、引き継いだ最初のうちは後任が前任者に電話やメールで何度も聞き、足りない部分を補っているという形です。
これは書き方が悪いからではありません。担当者自身が自分の業務をすべて棚卸しするのは難しく、会社としての決まったフォーマットもないことが多いため、空欄を埋める方式ではどうしても抜けが出ます。テンプレートだけでは、本人が意識していない判断が抜けやすいので、この記事では、AIに質問させて答えるだけで引継書ができる方法を後半で紹介します。
業務引継書に書く7つの項目

7つの項目を、書くときの細かさの目安とあわせて説明します。
業務一覧(頻度・期限・所要時間)
最初に、引き継ぐ業務を一覧にします。毎日・毎週・毎月・年に1回と頻度で分けておくと、後任がいつ何をすればよいかを見通せます。特に抜けやすいのは、決算や監査への対応、契約の更新のような年に1回の業務なので、過去1年分の予定表を見返しながら拾うのが確実です。
手順と判断の決め手
手順は、後任がその通りに進めれば終わる細かさで書きます。そのうえで大切なのが、手順の途中で「何を見て、どう決めているか」を残すことです。前任者にとっては当たり前の判断ほど書かれずに残らず、後任がつまずきやすいのもそこです。
進行中の案件と期限
引き継ぐ時点で途中になっている案件、相手と約束していること、次の期限を書き出します。口頭で済ませていた約束は記録に残っていないことが多いので、取引先とのメールを見返して拾っておくと安心です。
関係者と連絡先
社内外の窓口の名前と連絡先に加えて、「何を誰に聞けばよいか」を書きます。部署名だけでなく、実際に話が早い人や、連絡はメールと電話のどちらがよいかまで書いておくと、後任が最初の数週間で迷わずに済みます。
資料・データの保管場所
資料やデータがどのフォルダにあるかと、最新版の見分け方を書きます。同じ名前のファイルが複数あると、後任は古いほうを使ってしまうことがあるので、どれが正しいかを一言添えておきます。
システムと権限(IDやパスワードは書かない)
業務で使うシステムと、必要な権限を書きます。IDやパスワードは引継書に書かず、会社の権限の手続きで移します。引継書は社内で回し読みされることが多く、パスワードを書くと誰でも見られる状態になってしまうためです。
よく聞かれること・迷ったときの判断
社内外からよく聞かれる質問とその答え、いつもと違うときの判断、新しく担当した人がやりがちな失敗を書きます。この項目は一般的なテンプレートにはあまり見かけませんが、後任が一人になってから一番役に立つのはここです。後半で紹介する「日頃の質問から知識を集める」考え方にもつながります。
AIに聞き取らせて引継書を作る|コピーして使えるプロンプト
空欄を自分で埋める代わりに、AIに前任者へ質問させ、答えた内容から7つの項目をまとめてもらう方法があります。ChatGPT や Claude などの対話型のAIに次のプロンプトを貼るだけで始められます。

書く人が考えなくても、AIが順番に質問してくれるので、本人が当たり前だと思っていて書き忘れることまで拾いやすくなります。答えが足りないところは「確認が必要なこと」として一覧になるので、そこだけを後から埋めれば済みます。
プロンプト
あなたは、業務の引き継ぎを手伝う聞き手です。
異動や退職で業務を引き継ぐ人(前任者)に質問し、後任が困らない業務引継書をまとめます。
# 聞き方
- 質問は1回に1つだけにし、答えを受け取ってから次を聞いてください。
- 答えは否定せず、まず受け止めてください(例:「なるほど、そこは大事なところですね」)。
- あなたは聞き手です。答えの例を示したり、分からないところを推測で埋めたりしないでください。
- 「なぜ」と聞くより、「そのとき何を見て決めましたか」「いつもと何が違いましたか」と聞いてください。
- 答えが短いときは、「たとえば、どんな場面でしたか」と具体的な場面を聞いてください。
- 言葉にしにくそうなときは、「例えるなら何に近いですか」と聞いてください。
- 本人が当たり前だと思っていることほど、言葉にしてもらってください。
- 思い出せないと言われたら無理に聞かず、「確認が必要」と記録して次へ進んでください。
- IDやパスワードは聞かず、出てきても書き残さないでください。
# 聞く順番
0. 手元にマニュアルや過去の引継書があれば、先に貼ってもらってください。書いてあることは聞き直さず、足りないところだけ聞いてください。
1. 引き継ぐ業務の名前と、後任がその仕事をどれくらい知っているか
2. 業務の一覧(毎日・毎週・毎月・年に1回)と、それぞれの期限とかかる時間
3. 業務ごとの手順と、そのとき何を見て決めているか
4. この業務で困った出来事を1つ、起きた順に話してもらう。判断の分かれ目ごとに、次を1つずつ聞く
- そのとき何を見ていたか、何に気づいたか
- ほかにどんなやり方を考えたか
- 最後に何で決めたか
- 思っていたのと違ったことはあったか
- 迷ったところはあったか
5. 新しく担当した人がやりがちな失敗と、そうならないための目安
6. 忙しくなる時期と、その前ぶれ(取引先の動きや季節を見て、先に手を打っていること)
7. もしもの話(例:「あなたも上司もいない日にこれが起きたら、後任はどうすればよいですか」)
8. いま進んでいる案件と、次の期限
9. 関係者(社内・社外)と、何を誰に聞けばよいか
10. 資料やデータの置き場所と、最新版の見分け方
11. 使っているシステムと、必要な権限
12. よく聞かれることと、その答え
# まとめ方
聞き終えたら(または「まとめて」と言われたら)、次の7つの見出しで業務引継書を作ってください。表にできるところは表にしてください。
1. 業務一覧(頻度・期限・所要時間)
2. 手順と、そのとき見ていること・判断の決め手
3. 進行中の案件と期限
4. 関係者と連絡先
5. 資料・データの保管場所
6. システムと権限
7. よく聞かれること、迷ったときの判断、やりがちな失敗
最後に、次の2つを付けてください。
- 確認が必要なことの一覧
- 後任が読んだあとに自分で確かめる質問を5つ
# 始め方
「引き継ぎのお手伝いをします。思い出せる範囲で大丈夫です。手元にマニュアルや前の引継書があれば、先に貼ってください。なければ、引き継ぐ業務の名前から教えてください。途中でやめたくなったら『ここまでをまとめて』と言ってください。そこまでの内容で引継書を作ります。」と言って始めてください。
試してみた結果|表を自分で埋めた場合と比べる
当社では、このプロンプトを架空の業務で試しました。機械部品メーカーの営業事務(受注と納期の回答)を想定し、前任者の役もAIが演じています。前任者には、当たり前になっていて聞かれないと出てこない知識を9つ持たせ、7項目の表を自分で埋めた場合と、AIに聞き取らせた場合とで、引継書にどれだけ残るかを比べました。
9つの知識(架空の業務・AI同士の試し) | 前任者役のAIが表を埋めた | 聞き手のAIが聞き取った |
理由まで残った | 3 | 8 |
項目の名前だけ残った | 4 | 0 |
残らなかった | 2 | 1 |
差が出たのは、そうしている理由と、過去の出来事です。たとえば「A社のFAXは旧品番で書かれてくることがある」という知識は、表では保管場所の欄に対応表の名前が書かれただけでしたが、聞き取りでは次のやり取りから、読み替えないと在庫が「なし」と出ることや、去年それで取引先が他社に発注しかけたことまで出てきました。
話し手 | 発言 |
AI | A社のFAXが旧品番で書かれていると気づくのは、どこを見たときですか。 |
前任者 | 正直、見ただけでぱっと分かるわけじゃないんですよ。去年それに気づかずに入れてしまって、「在庫なし・納期3週間」って回答したことがあるんです。 |
AI | 品番が違っていたと分かったのは、どんなきっかけでしたか。 |
前任者 | A社の担当者から営業に「納期3週間なら他社さんに頼もうと思う」と話があって、営業が慌てて私のところに来たんだったと思います。 |
また聞き取りでは、前任者自身も分かっていないこと(対応表を誰が更新しているか、後任に要るシステムの権限など)が、「確認が必要なこと」として10件並びました。表を自分で埋める方式では、分からないところも埋まったように見えてしまうので、こうした抜けに気づきにくくなります。
ただし、これは前任者もAIが演じた1回だけの試しで(使ったAIは Claude だけ)、実際の人で同じ差が出るかは確かめていません。また、試したのは上のプロンプトを直す前の版で、この結果をもとに、業務ごとの期限とかかる時間や、忙しくなる時期とその前ぶれも聞くようにするなど、3か所を直したのが上のプロンプトです。それでも、「何を見て気づいたか」「どんなきっかけだったか」と聞くかどうかで、引継書に残る中身が変わることは、この試しからも読み取れます。
聞き取りのコツ(何を見ていたか・困った出来事・新人の失敗)
このプロンプトの聞き方は、当社が開発している、対話から言葉になっていない知識を引き出すツール(co-think)の考え方をもとにしています。co-think では、熟練した人が判断した場面について、そのとき見ていた手がかり、ほかに考えた選択肢、決め手、状況のつかみ方、想定と違ったこと、迷ったことの6つを順に聞いていきます。これは、熟練者の判断を出来事に沿って聞き取る CDM(Critical Decision Method)という手法の考え方にならったものです。
引き継ぎの聞き取りでも、次の3つを意識するだけで、出てくる話の中身が変わります。
- 「なぜ」より「そのとき何を見て決めたか」「いつもと何が違ったか」と聞く
- 困った出来事を1つ選び、起きた順に話してもらう
- 新しく担当した人がやりがちな失敗と、もしもの場面を聞く
「なぜ」と聞かれると、人は後から筋の通った理由を組み立てて答えがちです。一方で「何を見ていたか」と聞くと、実際の判断に使っていた手がかりが出てきます。また、手順を一般論として聞くより、実際に困った出来事を順に話してもらうほうが、例外のときの判断が具体的に出てきます。
使い方のコツ
手元にマニュアルや前の担当者が作った引継書があれば、先にAIに貼ってから始めると、書いてあることを聞き直さずに足りないところだけを聞いてくれます。試したときは、受注と納期の回答の2つの業務で、AIからの質問が20問ほどになりました。業務が多い場合は、1回で全部を終わらせようとせず、業務ごとに分けて聞き取るほうが疲れずに続けられます。
できあがった下書きは、前任者と後任が一緒に読んで直すのがおすすめです。後任が聞き取りの場に同席できれば、文書にしにくい話し方の調子や、前任者がこだわっている点も伝わります。
社内の情報を入れるときの注意
一般向けのAIサービスに社内の情報を入れるときは、入力した内容がサービスの改善に使われる設定になっていないかを、先に確かめてください。取引先の名前や個人情報、契約の金額など、外に出してはいけない情報は伏せて入力するか、会社で使ってよいと決められているAIの環境で使うのが安全です。設定の確かめ方は「生成AIに機密情報を学習させない方法」の記事で詳しく解説しています。
業務引継書の作り方|最終出勤日から逆算する5ステップ

業務引継書は、最終出勤日から逆算して進めると、慌てずに作れます。
1. 業務を洗い出す
まず、引き継ぐ業務を書き出します。頭の中だけで思い出そうとすると抜けるので、過去1か月分の予定表と送ったメールを見返しながら拾うのが確実です。年に1回の業務は、前年の同じ時期の予定表を見ると思い出せます。
2. 優先順位を付ける
洗い出した業務に、止まると困る順に優先順位を付けます。期限が近いもの、取引先が関わるもの、ほかの人が代わりにできないものから引き継ぐと、万一時間が足りなくなっても影響を小さくできます。
3. AIに聞き取らせて下書きを作る
優先順位の高い業務から、前の章のプロンプトを使って聞き取りをします。1つの業務ごとに区切って聞き取り、出てきた下書きを7項目の表に貼っていくと、引継書が少しずつ埋まっていきます。
4. 後任と一緒にやってみる
下書きができたら、実際の業務を一度、後任と一緒に回してみます。引継書を読んだだけでは分からなかった点がここで見つかるので、その場で引継書に書き足します。
5. 受け取る側がチェックする
最後に、後任の目で7つの項目がそろっているかを確かめます。プロンプトが最後に作る「後任が自分で確かめる質問」に答えられるかを試すと、理解できていないところが分かります。
業務の引き継ぎはどこまで?何か月かかる?
業務の引き継ぎについて、よく聞かれる質問に答えます。
どこまで書けばいい?
目安は、後任が一人で1か月分の業務を回せるところまでです。毎日・毎月の業務に加えて、その1か月の間に起こりそうな例外への対応と、年に1回の業務や契約の更新まで書いておけば、前任者に連絡しなくても回せる場面が増えます。
何か月かかる?
業務の量や複雑さによって大きく変わるので、一律の期間はありません。最終出勤日から逆算して、洗い出しと聞き取り、後任と一緒にやってみる時間を先に確保しておくことが大切です。
後任が決まっていないときは?
後任が決まっていない場合でも、上司がいったん引き継ぎを受け取り、会社として引き継ぎ先を決めておきます。前任者の手元にしか情報がない状態で退職日を迎えるのが、いちばん避けたい形です。
引き継ぎ資料がないときは?
資料が残っていない業務を引き継ぐときは、残っているメール、ファイル、システムの記録から業務の全体をつかみ、分からないところを知っている人に聞いて補います。最近は、AIを使って大量のファイルや記録をまとめて読み込み、全体の量と中身を先に把握できるようになりました。
業務引継書だけでは残らないもの

7つの項目をそろえても、引継書だけでは残りにくいものがあります。判断の決め手、例外のときの対応、誰に聞けば話が早いかといった知識は、書類にしにくく、本人も意識していないことが多いからです。
辞めるときにまとめて書くと抜ける理由

引継書は、退職や異動の直前の、いちばん忙しい時期にまとめて書かれることが多いものです。その時期に、本人にとって当たり前になっている判断まで思い出して書き出すのは難しく、結果として手順と資料の場所だけが残ることになります。
引き継ぎをSECIモデルの4つの段階で見る

組織の中で知識がどう伝わり、増えていくかを説明する考え方に、野中郁次郎氏と竹内弘高氏が『知識創造企業』で示した SECIモデルがあります。言葉になっていない知識(暗黙知)と、言葉や文書になった知識(形式知)が、次の4つの段階を回りながら行き来するという考え方です。
段階 | 知識の動き | 引き継ぎでやること |
共同化 | 体験を共にして、暗黙知を暗黙知のまま伝える | 後任が前任と一緒に業務を回す |
表出化 | 暗黙知を言葉にして、形式知にする | 前任者から聞き取り、判断の決め手を言葉にする |
連結化 | 形式知どうしを組み合わせて整理する | 今ある資料と聞き取った内容を、引継書にまとめる |
内面化 | 形式知を実際に使って、自分のものにする | 後任が引継書を使って業務をこなし、身につける |
現場でよく見かけるのは、資料をまとめる連結化の段階だけで終わってしまう引き継ぎです。抜けているのは、言葉になっていない知識を聞き出す表出化と、後任が実際に使って身につける内面化です。この記事のプロンプトは表出化を助けるもので、後任が自分で確かめる質問は内面化の入り口になります。
他社が作ったシステムを引き継いで見えたこと
当社では、他社が作ったWebサイトやシステムを引き継ぐ仕事もしています。そこでまず困るのは、全体でどれくらいの量があり、どんなページや機能があるのかが分からないことです。資料が残っていても更新されていないことが多く、書いてある内容をそのまま信じられません。
たとえば、前の制作会社が保守をやめた会社のサイトを引き受ける場面を考えてみます。渡されるのはページの一覧と更新の手順書くらいで、一覧は公開した当時のまま止まっており、後から足した採用やキャンペーンのページは載っていません。手順書にも、よく直すお知らせの更新しか書かれておらず、それ以外の所をどう作ったのかは、中身を開いてみるまで分かりません。
以前は、ファイルの数やページの数までは人の手で数えられても、ページの中で場所によって使っている書体が違うといった細かいところは、目で見て回るだけでは拾いきれずに抜け落ちていました。今はAIで手元にあるファイルとページを読み込み、人の目では見落としやすい細部まで洗い出したうえで、エンジニアが確かめるやり方を取っています。先ほどの例でいえば、一覧に載っていないページがどこに残っているか、どのページのどの部分だけ書体が違うかを、作業に入る前に洗い出せます。
業務の引き継ぎも同じで、全体の量が分からず、資料は古く、人が思い出して書くだけでは細かい例外が抜けます。人が書き出すのを待つより、AIに聞き取らせて全体を拾うほうが、抜けを減らしやすいと考えています。
引き継ぎを「辞めるときの作業」から「日頃の仕組み」に変える

ここまでの方法で、1回の引き継ぎはかなり楽になります。ただ、辞めるときにまとめて聞き取る形のままでは、引き継ぎのたびに同じ作業を繰り返すことになります。そこで、知識を日頃から少しずつ集めておき、辞めるときはたまった文書から引継書を作る、という考え方に切り替えると、引き継ぎそのものが軽くなります。
日頃の質問で、足りない知識を見つける
たとえば、こういう場面を考えてみます。社内のAIに「旧型の部品の発注先はどこか」と聞かれて答えられなかった記録が残り、調べてみると、資料には何年も前の担当者の名前のまま更新されていなかった、という場面です。答えられなかった質問は、資料が無い、古い、見つけにくいといった抜けを調べる手がかりになり、引き継ぎで抜けやすい知識の候補にもなります。
当社の「相棒AI」は、社内の資料から引用をつけて答え、答えられなかった質問を懸案として残します。管理する人は、何が聞かれ、何に答えられなかったかを見られるので、どこの知識が足りないのかを日頃から把握できます。
知っている人に聞き取って、文書に残す
足りない知識が分かったら、それを知っている人に聞き取って文書にします。当社が開発中の「Knowledge Hub」は、相棒AIが残した懸案をもとに、知っている人にAIが質問し、答えをまとめて、承認を経て社内の文書にする仕組みです。記事の前半で紹介したプロンプトを、会社の仕組みとして毎日回す形だと考えると分かりやすいと思います。
書いてもらうより聞いて残すほうが、本人が当たり前だと思っている判断まで出てきやすくなります。こうして集めた文書があれば、異動や退職のときは、それを引継書の下書きに使い、案件の進み具合や権限を今のものに直して、後任と確かめるところから始められます。
まずは1つの業務で試す
いきなり会社全体で始める必要はありません。退職や異動が決まっている1人、1つの業務から聞き取りを始めてみると、どんな知識が抜けやすいかが見えてきます。
まとめ|業務引継書は、AIに聞き取らせて会社の知識に変える
業務引継書に書くのは、業務一覧、手順と判断の決め手、進行中の案件、関係者、資料の場所、システムと権限、よく聞かれることと迷ったときの判断の7つです。空欄を自分で埋めるより、AIに質問させて答えるほうが、本人が当たり前だと思っている判断まで残りやすくなります。
- 7つの項目の表をコピーして、自社の業務に合わせて使う
- AIに聞き取らせるときは「何を見て決めたか」「困った出来事」「新人の失敗」を聞く
- 最終出勤日から逆算し、後任と一緒にやってみる時間を確保する
- 引き継ぎのたびにゼロから作らず、日頃の質問から知識を集めておく
まずは、次に引き継ぎが決まっている業務で、この記事のプロンプトを試してみてください。
この記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。



