技術継承ができない理由と、ベテランが辞める前にAIで聞き取る方法

技術継承ができない理由を、よく挙げられる人手や時間の問題に加えて「ベテランに話してもらえない」「何を聞けばよいか分からない」の2つに絞って解説します。AIを聞き手にして判断の手がかりを聞き出す方法と、コピーして使えるプロンプト、辞める前に始める5つのステップも紹介します。
目次
1.技術継承とは|残したいのは手順より判断の手がかり
1-1.技術継承と技能伝承の違い
1-2.マニュアルに残るもの、残らないもの
2.技術継承ができない理由|聞き取りの場で起きる2つのつまずき
2-1.1. ベテランに話してもらえない
2-2.2. 何を聞けばよいか分からない
2-3.技術継承ができないとどうなるか
3.AIを聞き手にすると、2つのつまずきがどう変わるか
3-1.「話してもらえない」には、急がせない聞き手を
3-2.「何を聞けばよいか分からない」には、決まった問いの順番を
3-3.「なぜ」より「何を見ていたか」と聞く
3-4.試してみた結果|1回で聞くか、幅を分けて聞くか
4.辞める前に始める技術継承の聞き取り|5つのステップ
4-1.1. 残したい判断の場面を選ぶ
4-2.2. 手元の資料を集める
4-3.3. AIに聞き取らせる
4-4.4. 若手と読んで聞き直す
4-5.5. 現場で使って足す
4-6.プロンプト|コピーして使える聞き取りの指示
4-7.社内の情報を入れるときの注意
5.技術継承でよくある質問
5-1.動画やマニュアルだけでは足りない?
5-2.ベテランが話したがらないときは?
5-3.いつから始めればよい?
6.辞める前だけでなく、日頃から聞き取って残す
6-1.答えられなかった質問から、聞く相手が決まる
6-2.知っている人にAIが聞き取り、文書に残す
6-3.まずは1人のベテランの、1つの場面から
7.まとめ|技術継承は、AIを聞き手にして辞める前から始める
ベテランの退職が見えてくると、技術継承をどう進めるかが急に話題になります。ところが、マニュアルを作ろう、若手を横につけようと動き出しても、肝心の「この人だから分かる判断」はなかなか残りません。
本人に書いてもらおうとすると手が止まり、若手が聞こうとしても何から聞けばよいかが分からないまま、退職の日が近づいていきます。技術継承ができない理由としては人手不足や教える時間の不足がよく挙げられ、どちらも確かに大きな理由ですが、時間を取って向き合っても、聞き取りの場でつまずいてしまうことがあります。
この記事では、技術継承ができない理由を、聞き取りの場で起きる「ベテランに話してもらえない」「何を聞けばよいか分からない」の2つに絞って整理します。そのうえで、AIを聞き手にして、ベテランが判断に使っている手がかりを順に聞き出す方法を、当社が架空の業務で試した結果とあわせて紹介し、コピーして使えるプロンプトと、辞める前に始める5つのステップもお伝えします。
技術継承とは|残したいのは手順より判断の手がかり
技術継承とは、ベテランが長い経験の中で身につけた技術やノウハウを、若手や後任に引き継ぎ、会社の中に残していく取り組みです。製造や建設の現場の話として語られることが多いものの、設備の点検や見積の段取り、取引先ごとの対応の仕方のように、どの職場にも「あの人だから回っている」仕事はあります。
技術継承と技能伝承の違い
似た言葉に「技能伝承」があります。一般には、図面や手順書、数値のように言葉や記録で伝えられるものを技術、手の感覚や段取りの勘のように体で覚えて身につけるものを技能と呼び分け、技術はマニュアルで渡せても、技能は一緒に作業しながら少しずつ伝えるしかない、と整理されることが多い言葉です。
ただ、現場で困るのは、この2つの間にある知識です。たとえば「機械からいつもと違う音がしたら、先に止めて確かめる」「この取引先からの急ぎの依頼は、まず在庫の現物を見る」といった判断は、聞かれれば言葉にできるのに、聞かれないまま本人の頭の中に残っています。この記事で扱うのは、主にこの聞けば言葉になる判断です。
マニュアルに残るもの、残らないもの
言葉になっていない知識を暗黙知、言葉や文書になった知識を形式知と呼びます。野中郁次郎氏と竹内弘高氏が『知識創造企業』で示した SECIモデルでは、暗黙知を言葉にして形式知にする段階を「表出化」と呼んでいます。
手順書や点検表に残るのは形式知で、そのやり方を選んでいる理由や、いつもと違うと気づく手がかりは、暗黙知のまま残りやすいものです。技術継承でいちばん難しいのは、この表出化の段階だと当社は考えています。
技術継承ができない理由|聞き取りの場で起きる2つのつまずき
技術継承ができない理由として、よく挙げられるのは次のようなものです。
- 受け継ぐ若手や後任が足りない
- ベテランが日々の業務で忙しく、教える時間が取れない
- 仕事が特定の人に偏り(属人化)、何を継承すべきかが見えていない
- 継承の進め方が社内で決まっていない
どれも大切な理由ですが、人を増やしたり時間を取ったりしても、ベテランと若手が向き合った場でつまずくと、判断の手がかりは残りません。当社が聞き取りの場面に絞って見ると、つまずきは次の2つにまとまります。

1. ベテランに話してもらえない
ベテランが話してくれないのは、出し惜しみをしているからとは限りません。自分のやり方が当たり前になりすぎていて、わざわざ話すほどのことだと思っていない場合があります。
また、若手から「なぜそうするんですか」と聞かれると、試されているように感じたり、うまく説明できないことに気まずさを感じたりすることもあります。忙しいベテランの時間をもらうことに聞く側が遠慮してしまい、話が深まる前に切り上げてしまうのも、つまずきの一つです。
2. 何を聞けばよいか分からない
聞く側にも難しさがあります。若手は、その仕事のどこに判断があるのかをまだ知らないので、「何に気をつけていますか」「コツはありますか」と大きく聞くしかありません。大きく聞かれると、ベテランも「経験かな」「慣れだね」と大きく答えるしかなく、話が具体的な場面に降りてこないまま時間が終わってしまいます。
つまり、技術継承ができないのは、聞く側と話す側のどちらかの努力が足りないからではなく、聞き取りの場に、話しやすくする聞き手と、聞く順番の型がないからだと当社は考えています。
技術継承ができないとどうなるか

ベテランが辞めたあとに困るのは、手順が分からないことより、いつもと違うことが起きたときに判断できないことです。残ったベテランに問い合わせが集まって負担が偏ったり、以前と同じ失敗を繰り返したり、取引先への回答に時間がかかったりといった形で表れやすくなります。後から抜けに気づいても、聞ける人がもういないことが、技術継承の難しいところです。
AIを聞き手にすると、2つのつまずきがどう変わるか
この2つのつまずきは、AIを聞き手にすることで小さくできます。ChatGPT や Claude のような対話型のAIに、聞き方と聞く順番を決めた指示(プロンプト)を渡しておくと、AIがベテランに1つずつ質問し、答えを受け止めながら、判断の場面を深く聞いていきます。
「話してもらえない」には、急がせない聞き手を
AIには、答えを否定せずにまず受け止めること、1回に1つだけ質問することを指示できます。相手が社内の後輩ではない分、試されているような気まずさを感じにくい面があり、思い出せないところは「確認が必要」として飛ばして先へ進めるので、話す側の負担が軽くなります。
空いた時間に少しずつ答え、続きは別の日に回すという進め方もできるので、ベテランの手を長く止めずに済みます。若手の側も、忙しい人の時間をもらう遠慮から離れて、聞き取りをAIに任せられます。
「何を聞けばよいか分からない」には、決まった問いの順番を
聞く順番は、当社が開発している、対話から言葉になっていない知識を引き出すツール(co-think)の考え方をもとにしています。co-think では、熟練した人が判断した場面を1つ選んでもらい、その場面について次の6つを順に聞いていきます。これは、熟練者の判断を出来事に沿って聞き取る CDM(Critical Decision Method)という手法の考え方にならったものです。

聞くこと | 質問の例 |
1. 見ていた手がかり | そのとき、何を見て(聞いて)気づきましたか |
2. ほかに考えた選択肢 | ほかに、どんなやり方を考えましたか |
3. 決め手 | 最後は、何で決めましたか |
4. 状況のつかみ方 | そのとき、何が起きていると考えていましたか |
5. 想定と違ったこと | 思っていたのと違ったことはありましたか |
6. 迷ったこと | 迷ったところはありましたか |
若手が自分で問いを考えなくても、判断した場面を1つ決めてこの順番で聞いていけば、話は自然と具体的な場面に降りていきます。聞き手をAIに任せれば、聞く人の経験によって聞き取りの深さが変わることも減らしやすくなります。
「なぜ」より「何を見ていたか」と聞く
聞き方で特に意識したいのは、「なぜ」を減らすことです。「なぜそうしたんですか」と聞かれると、人は後から筋の通った説明を考えて答えがちですが、「そのとき何を見ていましたか」「いつもと何が違いましたか」と聞くと、その場で実際に判断に使っていたものが出てきやすくなります。「なぜ」と聞くか、「何を見ていたか」と聞くかで、前者からは後から組み立てた理由が、後者からは実際に使っていた手がかりが出てきやすい、という違いです。

あわせて、新しく担当した人がやりがちな失敗と、「あなたも上司もいない日にこれが起きたら、若手はどうすればよいですか」といったもしもの質問も聞いておくと、例外のときの判断が出てきやすくなります。答えが短いときは「たとえば、どんな場面でしたか」と具体的な場面を聞き、聞き手は答えの例を示したり、分からないところを推測で埋めたりしないのが決まりです。
試してみた結果|1回で聞くか、幅を分けて聞くか
当社では、この聞き取りを、食品メーカーの工場で飲料の充填ラインと包装ラインの設備保全を担当するベテランを想定した、架空の業務で試しました。来年3月に定年を迎える28年目のベテランから入社3年目の若手へ引き継ぐ設定で、ベテランの役もAIが演じ、「聞かれたときだけ思い出す」知識を9つ持たせています。持たせたのは、充填機の音の変わり方や、夏の暑さで下がるエアコンプレッサーの圧力、夜勤で誰もいないときの頼り先といった知識で、これがどれだけ残るかを比べました。
比べたのは、判断の6つの問いを見出しにした表をベテランが自分で埋めた場合と、AIに聞き取らせた場合です。AIの聞き取りは、1回で全部を聞く形を問いを変えて2回と、聞く幅を5つに分けて5回で聞く形を1回試し、採点は、試しに関わっていない別のAIが、9つの知識と出てきた内容だけを見て行いました。
9つの知識 | 表を自分で埋めた | 1回で聞く(1回目) | 1回で聞く(2回目) | 幅を分けて5回で聞く |
残った | 1 | 7 | 6 | 8 |
一部だけ残った | 4 | 0 | 1 | 0 |
残らなかった | 4 | 2 | 2 | 1 |
AIからの質問の数 | ― | 約19 | 約29 | 約53 |
表を自分で埋めた方では、充填機の異常に気づくところが「音。聴診棒で聞く」とだけ書かれ、どんな音に変わったら何の前ぶれなのか、聴診棒をどこに当てるのかは残りませんでした。AIの聞き取りでは、音がどう変わったら何の前ぶれなのかと、聴診棒を当てる場所まで出ています(どれも架空の設定で、実際の機械の手順ではありません)。業務の引き継ぎを想定して別に試したときも、表を自分で埋めた場合とAIの聞き取りとで同じような差が出ました。
目を引いたのは、1回で聞く形の2回の結果です。1回目に出なかった夏のコンプレッサーと夜勤のときの頼り先を聞く問いを足したところ、2回目はその2つが出た代わりに、シール部の焦げたにおいと、5年前に見立てを誤った出来事が消えました。ベテラン役には「聞かれたときだけ思い出す」と決めてあったので、どの知識が出るかは、その知識に当たる問いがあったかどうかに大きく左右され、問いを足すほど1回の聞き取りは長くなりました。少なくともこの設定では、1回で全部を聞き出すのは難しいということです。
そこで、聞く幅を「判断の場面」「見立てが外れたこと」「やりがちな失敗と、点検の見方」「時期と前ぶれ」「もしものとき」の5つに分け、1回に1つの幅だけを聞く形にすると、9つのうち8つが残りました。幅ごとに具体的な問いがあるので、1回で聞く形では入れ替わりで抜けていた知識が一度にそろい、ベテランが途中で「まとめて」と言っても、失うのはその回の残りだけで済みます。
なかでも効いたのは、「たいてい」「だいたい」と言われたら、そうでなかったときのことを聞き返す決まりでした。1回目の「判断の場面」の聞き取りでは、次のやり取りから、5年前に見立てを誤った出来事が出てきています(やり取りはAI同士で行ったもので、一部を省いています)。
話し手 | 発言 |
AI | いま「だいたいそれだな」とおっしゃいましたが、同じような音なのに、カムフォロアのベアリングではなかったことはありましたか。あれば、そのときのことを教えていただけますか。 |
ベテラン | ……ありますね。5年前です。充填機で同じような音がして、いつものベアリングだと思って替えたんですよ。でも本当は軸がずれてたんです。替えたあとしばらくは静かだったんですけど、3日後にラインが止まって、半日分の製品を捨てることになりました。(中略)それからは、部品を替えたあとに必ずダイヤルゲージで軸の振れを測るようにしてます。 |
一方で、5回に分けると質問は約53まで増え、1回で聞く形のおよそ2〜3倍になりました。聞き手のAIは毎回新しいチャットで前の回を知らないため、5年前の出来事や夏のコンプレッサーの話を回をまたいで何度も聞き直し、まとめも5本に分かれています。5回に分けても残らなかった1つは、コンベヤが止まったら先に床の洗浄水を疑うという知識で、やりがちな失敗を1つ聞いたところで「ほかにはありますか」と聞き直さずに次へ進んだためと考えられます。
どの試しも1回ずつで、使ったAIは Claude だけ、ベテランも架空の役なので、8・7・6の差は小さく、どの形が良いとまでは言い切れません。5つの幅も、仕込んだ9つの知識を見ながら作ったので、ほかの仕事やほかの知識にも同じように効くかは分かりません。それでも当社では、技術継承の聞き取りは1回で出し切ろうとせず、聞く幅を決めて段階的に聞くほうが、聞き残しを減らしやすいと考えています。
辞める前に始める技術継承の聞き取り|5つのステップ
社内で技術継承を進めるときは、ベテランの退職日から逆算して、次の5つのステップで聞き取りを進めます。

1. 残したい判断の場面を選ぶ
最初に、そのベテランにしかできない判断がどこにあるかを選びます。若手やまわりの人に「あの人に聞かないと分からないこと」を挙げてもらい、過去のトラブルや、いつもと違う対応をした場面を1つずつ書き出しておくと、それが聞き取りの入り口になります。
2. 手元の資料を集める
手順書や点検の記録、過去の報告書など、今ある資料を先に集めます。聞き取りの前にAIに読ませておけば、書いてあることは聞き直さず、資料に書かれていない判断だけを聞けるので、ベテランの時間を無駄にせずに済みます。
3. AIに聞き取らせる
下のプロンプトを使ってAIに聞き取らせます。1回で全部を聞こうとせず、聞く幅を1つずつ区切って何回かに分けると、聞き残しを減らしやすく、1回あたりの負担も小さくしやすくなります。実際の負担はベテランに聞いて、回数や質問の数を調整してください。当社が試したときは、5回に分けてAIからの質問が合わせて約53、1回あたり7〜15問ほどでした。
4. 若手と読んで聞き直す
AIがまとめた内容を若手が読み、分からなかったところを書き出して、それをもとにもう一度聞き取ります。あわせてベテランにも読んでもらって正しいかを確かめ、手順や安全に関わるところは、現場の責任者が確認してから使います。若手が聞き取りの場に同席できれば、話し方の調子や、ベテランがこだわっている点も伝わります。
5. 現場で使って足す
まとめた内容を、若手が実際の作業で使ってみます。使ってみて迷ったところをベテランがいるうちに聞き足していくと、SECIモデルでいう「内面化」、つまり言葉にした知識を若手が自分のものにする段階まで進められます。
プロンプト|コピーして使える聞き取りの指示
ChatGPT や Claude などの対話型のAIに、次のプロンプトを貼って使います。上の試しで使った「幅を決めて分けて聞く」形に、試しで足りなかった点(前の回のまとめを貼る、「ほかには」を聞き直す、最後に1本にまとめ直す)を足したもので、足したあとの形ではまだ試していません。
使うときは、「今回聞く幅」に下の5つの幅のうち1つを入れて新しいチャットに貼り、聞き終えたら次の幅で新しいチャットを始めます。2回目からは、前の回までのまとめを「これまでのまとめと手元の資料」に貼っておくと、同じ話の聞き直しを減らせます。途中で質問が多すぎると感じたら、「ここまでをまとめて」と伝えれば、そこまでの内容でまとめてくれます。
あなたは、ベテランの技術や判断を若手に引き継ぐための聞き手です。
今回は、下の「今回聞く幅」だけを聞きます。幅の外の話が出たら、短く受け止めて「次の回に伺います」と言い、幅に戻ってください。
# 聞き方
- 質問は1回に1つだけにし、答えを受け取ってから次を聞いてください。
- 答えは否定せず、まず受け止めてください(例:「なるほど、そこは大事なところですね」)。
- あなたは聞き手です。答えの例を示したり、分からないところを推測で埋めたりしないでください。まとめにも、聞いていないことは書かないでください。
- 「なぜ」と聞くより、「そのとき何を見ていましたか」「いつもと何が違いましたか」と聞いてください。
- 答えが短いときは、「たとえば、どんな場面でしたか」と具体的な場面を聞いてください。
- 1つ答えが出たら、「ほかにはありますか」と、もう無いと言われるまで聞いてください。
- 「たいてい」「だいたい」と言われたら、そうでなかったときのことを聞いてください。その話が幅の外に広がったら、短く聞いて「次の回に伺います」と言ってください。
- 思い出せないと言われたら無理に聞かず、「確認が必要」と記録して次へ進んでください。
- 「これまでのまとめと手元の資料」に書いてあることは、聞き直さないでください。
- IDやパスワード、個人の連絡先は聞かず、出てきても書き残さないでください。誰に頼ればよいか(役割や会社)は残してください。
# 今回聞く幅
(ここに、下の5つの幅のうち1つを貼る)
# これまでのまとめと手元の資料
(1回目は、手順書や点検表があれば貼る。2回目からは、前の回までのまとめも貼る)
# まとめ方
幅について聞き終えたら(または「まとめて」と言われたら)、次の3つでまとめてください。表にできるところは表にしてください。
1. 今回の幅で分かったこと
2. 確認が必要なこと(聞けなかったことも含める)
3. 次の回に伺うこと(幅の外で出た話)
# 始め方
「今回は、貼っていただいた幅について伺います。思い出せる範囲で大丈夫です。」と言って、幅の最初の問いから始めてください。「今回聞く幅」には、次の5つを1回に1つずつ、上から順に貼ります。
1. 判断の場面
引き継ぐ仕事の名前と、若手がどれくらい知っているかを聞いたあと、自分にしかできないと思う判断を1つ選んでもらい、その場面を起きた順に話してもらいます。判断の分かれ目ごとに、次を1つずつ聞きます。そのとき何を見ていたか/ほかにどんなやり方を考えたか/最後に何で決めたか/そのとき何が起きていると考えていたか/思っていたのと違ったことはあったか/迷ったところはあったか
2. 見立てが外れたこと
同じような症状で見立てが外れたことや、判断を誤ったことを1つ選んでもらい、起きた順に話してもらいます。そのとき何を見落としていたか、あとから振り返って何が違っていたか、それ以来何を変えたかを聞きます。ほかにもあれば、同じように聞きます。
3. やりがちな失敗と、点検の見方
新しく担当した人がやりがちな失敗と、そうならないための目安を聞きます。手順書や点検表があれば、貼れなくても項目の名前を挙げてもらい、項目ごとに「○を付ける前に、何を見て正常と決めていますか」を聞きます。
4. 時期と前ぶれ
忙しくなる時期、季節や気温で設備や作業の調子が変わる時期、そして時期に関係なくトラブルの前ぶれとして気にしていることを、1つずつ聞きます。それぞれ、何を見て気づくかと、先に打っている手を聞きます。
5. もしものとき
あなたも上司もいない日(夜や休日など)に設備の調子がおかしくなったとき、止めるかどうかを誰が決めてよいかと、自分たちで直せないときに誰に頼ればよいかを聞きます。決まりになっているか、口約束や個人的なつながりかも聞きます。5回を聞き終えたら、新しいチャットに次のプロンプトと5回分のまとめを貼り、若手に渡す1本にまとめ直します。
これまでの聞き取りのまとめを、下に貼ります。若手が読んで使えるように、1本にまとめ直してください。
- 同じ話は1か所にまとめてください。回によって言い方や中身が違うところは、どちらかに決めずに「確認が必要」に入れてください。
- 聞き取りのまとめに無いことは、書き足さないでください。
次の見出しでまとめ、表にできるところは表にしてください。
1. 仕事の概要
2. 判断の場面ごとの、見ていた手がかり・ほかに考えた選択肢・決め手
3. 見立てが外れたことと、それ以来変えたこと
4. やりがちな失敗と、点検の見方
5. 時期と前ぶれ、先に打っている手
6. もしものときの動き方と、頼り先
最後に、次の2つを付けてください。
- 確認が必要なことの一覧
- 若手が読んだあとに自分で確かめる質問を5つ
(ここに、5回分のまとめを貼る)社内の情報を入れるときの注意
一般向けのAIサービスに社内の情報を入れるときは、入力した内容がサービスの改善に使われる設定になっていないかを、先に確かめてください。取引先の名前や図面、製品の仕様のように外に出してはいけない情報は伏せて入力するか、会社で使ってよいと決められているAIの環境で使うのが安全です。設定の確かめ方は「生成AIに機密情報を学習させない方法」の記事で解説しています。
技術継承でよくある質問
技術継承について、よく聞かれる質問に答えます。
動画やマニュアルだけでは足りない?
作業の手順や手の動きは、動画やマニュアルでかなり残せます。足りなくなりやすいのは、いつもと違うと気づく手がかりや、ほかのやり方ではなくそれを選んだ決め手で、これは映像を見ても分かりません。
動画を撮るときも、あとからベテランに「このとき何を見ていたか」を聞いて書き添えておくと、残る中身が変わります。手順をまとめておく場所がまだ社内に無い場合は、「社内Wikiを無料で作る方法」の記事も参考にしてください。
ベテランが話したがらないときは?
「教えてください」と構えて頼むより、困った出来事を1つ思い出してもらうところから始めるほうが、話しやすくなります。うまくいった話よりひやりとした話のほうが判断の分かれ目がはっきりしているので、聞き手にとっても深めやすい場面です。AIに聞き手を任せ、ベテランの都合のよい時間に少しずつ答えてもらう形にするのも一つの方法です。
いつから始めればよい?
退職や異動が決まってからでは、最後の数か月はほかの引き継ぎで手一杯になりがちです。聞き取りは幅ごとに1回ずつ進められるので、辞める予定がまだ先でも、残したい判断の場面を選んで1つ目の幅から始めておくと、慌てずに済みます。
辞める前だけでなく、日頃から聞き取って残す
辞める前の聞き取りで、1人分の技術継承はかなり進めやすくなります。ただ、退職のたびにまとめて聞き取る形のままでは同じ作業を繰り返すことになり、聞き残したことに気づくのも辞めたあとになります。そこで、日頃から少しずつ聞き取って残しておく、という考え方に切り替えると、技術継承そのものが軽くなります。

流れは、1. 若手からの質問、2. AIが社内資料で答える、3. 答えられなかった質問が残る、4. ベテランにAIが聞き取る、5. 承認して文書にする、の5つです。
答えられなかった質問から、聞く相手が決まる
当社の「相棒AI」は、社内の資料から引用をつけて答え、答えられなかった質問を懸案として残します。若手が現場で迷って聞いたのに答えられなかった質問は、資料が無いのか、古いのか、探し方の問題なのかを確かめれば、「まだ文書になっていない判断」の一覧になり、誰に何を聞き取ればよいかの手がかりになります。
知っている人にAIが聞き取り、文書に残す
当社が開発中の「Knowledge Hub」は、相棒AIが残した懸案をもとに、知っている人にAIが質問し、答えをまとめて、承認を経て社内の文書にする仕組みです。この記事で紹介した聞き取りを、会社の仕組みとして日頃から回す形だと考えると分かりやすいと思います。
たまった文書を相棒AIが答えるときに使えば、ベテランが辞めたあとも、若手は同じ判断の手がかりにたどり着きやすくなります。
まずは1人のベテランの、1つの場面から
いきなり会社全体で始める必要はありません。退職が近いベテランの1人と、判断が要る1つの場面から聞き取りを始めてみると、どんな知識が抜けやすいかが見えてきます。
ベテランの知識を日頃から聞き取って残す仕組みについて相談する
まとめ|技術継承は、AIを聞き手にして辞める前から始める
技術継承ができない理由は人手や時間の問題として語られがちですが、聞き取りの場に絞ると、ベテランに話してもらえないことと、何を聞けばよいか分からないことの2つにまとまります。どちらも、急がせない聞き手と決まった問いの順番があれば小さくでき、AIはその聞き手を務められます。ただ、1回の聞き取りで出てくる知識はその回の問いに左右されやすいので、聞く幅を決めて何回かに分けて聞くほうが、聞き残しを減らしやすくなります。
- 残したいのは手順より、判断に使っている手がかり
- 「なぜ」より「そのとき何を見ていたか」と聞く
- 判断した場面を1つ選び、6つの問いを順に聞く
- 1回で出し切ろうとせず、聞く幅を決めて段階的に聞く
- 退職が決まる前から、1つ目の幅から聞き取りを始める
まずは、退職が近いベテランの1人と、1つ目の幅「判断の場面」から、この記事のプロンプトを試してみてください。
この記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。



