ナレッジ共有が難しいのはなぜ?5つの理由と、AIで集めて使う仕組み

ナレッジ共有が難しいのはなぜか、5つの理由を「集める側」と「使う側」に分けて解説します。社内の質問から足りない知識を見つけ、知っている人にAIが聞き取って文書にし、引用つきの答えで使う仕組みと、日報をAIの聞き取りに変える方法、始める4つの手順も紹介します。
目次
1.ナレッジ共有とは|共有したいのは手順より「判断の決め手」
1-1.ナレッジ共有とナレッジマネジメントの違い
1-2.共有したい知識は2種類ある
2.ナレッジ共有が難しい5つの理由
2-1.1. 書く手間に見合う見返りがない
2-2.2. 何を書けばよいかが分からない
2-3.3. 探しても見つからない
2-4.4. 古くなっても誰も気づかない
2-5.5. 何が足りないのかが見えない
3.よくある対策が続かない理由
4.集める仕組みと使う仕組みをセットにする
4-1.社内からの質問で、足りない知識を見つける
4-2.実際の記録から|3人が同じ症状を聞いていた
4-3.書いてもらうのではなく、AIが聞き取る
4-4.集めた知識は、引用つきで答える形で使う
5.日報を、AIが聞き取る場にする
5-1.AIに日報を書かせるだけでは、知識は残りにくい
5-2.1日の終わりに、AIが聞く3つの質問
5-3.聞き取った日報を、知識の候補にする
6.社内でナレッジ共有を始める4つの手順
6-1.1. 対象の部署と業務を1つ決める
6-2.2. よく聞かれる質問を集める
6-3.3. 答えられない質問を、知っている人に聞き取る
6-4.4. 足りない知識の一覧を毎月見る
7.ナレッジ共有でよくある質問
7-1.ナレッジ共有にAIを使うと、何が変わる?
7-2.社内の情報をAIに入れても大丈夫?
7-3.社内Wikiとは何が違う?
7-4.少人数の会社でも始められる?
8.まとめ|ナレッジ共有は、集めると使うをつなぐと回り始める
社内Wikiを用意し、共有フォルダを整え、「気づいたことは書いて残しましょう」と呼びかけても、ナレッジ共有はなかなか続かないものです。始めた直後は投稿があっても、数か月たつと更新が止まり、結局は詳しい人の席まで聞きに行く毎日に戻ってしまった、という経験はないでしょうか。
ナレッジ共有が難しいのは、社員の意識の問題だけではありません。知識を「集める」仕組みと「使う」仕組みが別々に作られていて、会社として何の知識が足りないのかが誰にも見えていないことが、続かない大きな理由だと当社は考えています。
この記事では、ナレッジ共有が難しい5つの理由を、集める側と使う側に分けて整理します。そのうえで、社内からの質問で足りない知識を見つけ、知っている人にAIが聞き取って文書にし、次の質問ではその文書から引用して答えるという、集めると使うをつないだ仕組みを、当社が相棒AIを提供している現場で実際に答えられなかった質問とあわせて紹介します。日報を、AIが書く場ではなくAIが聞き取る場に変える方法もあわせて解説します。
ナレッジ共有とは|共有したいのは手順より「判断の決め手」
ナレッジ共有とは、社員一人ひとりが仕事の中で身につけた知識や経験を、ほかの社員も使える形にして、組織の中で分かち合うことです。マニュアルや資料のように文書になっている知識だけでなく、ベテランが経験から身につけた判断のコツや、取引先ごとの勘どころのように、本人の頭の中にしかない知識も含まれます。
ナレッジ共有とナレッジマネジメントの違い
よく似た言葉に、ナレッジマネジメントがあります。ナレッジマネジメントは、知識を集め、整理し、届け、使い、古くなったら直すまでを、会社の仕組みとして回していく考え方です。ナレッジ共有はその中の「届ける」部分にあたるため、共有だけを切り出して始めると、集める所と直す所が抜けやすく、それが後で述べる「続かない」理由にもつながります。
共有したい知識は2種類ある
共有したい知識には、文書にしやすいものと、しにくいものがあります。手順や規程、資料の置き場所のような知識は、一度文書にしておけば誰でも読めますが、「この取引先からの急ぎの依頼は、先に営業へ一声かけてから受ける」「この数字が出たら、機械を止めて確かめる」といった判断の決め手は、本人にとって当たり前になっていて、書こうとしてもなかなか出てきません。
前者は形式知、後者は暗黙知と呼ばれます。社内で「あの人に聞かないと分からない」と言われやすいのは、こうした暗黙知のほうで、ナレッジ共有が難しくなるのも、この知識を扱おうとしたときです。
ナレッジ共有が難しい5つの理由
ナレッジ共有が難しい理由は、知識を書いて残す「集める側」の理由と、残った知識を探して使う「使う側」の理由に分けると、見通しがよくなります。そして5つ目の理由は、その2つの間にあります。

1. 書く手間に見合う見返りがない
知識を書いて残す作業は、書く人にとっては本来の仕事の外にあるため、忙しい時期ほど後回しにされやすくなります。書いたことで自分の仕事が楽になるわけでもなく、いちばん知識を持っているベテランほど仕事を抱えていて、書く時間を取れないという皮肉も起きます。
2. 何を書けばよいかが分からない
「気づいたことを書いてください」と頼まれても、本人にとって当たり前のことは、そもそも「気づいたこと」に入りません。白紙のページを前にすると、手順や結果は書けても、そのとき何を見て判断したかまでは書き出しにくく、書いてほしい知識ほど本人の頭から出てきにくいところに、ナレッジ共有の難しさがあります。
3. 探しても見つからない

書かれた知識があっても、使う側が見つけられなければ役に立ちません。ファイル名や置き場所が人によって違い、どの言葉で探せばよいかも分からないと、探すより詳しい人に聞いたほうが早いという判断になり、聞きに行く人が増えるほど、詳しい人が書くための時間はさらに削られていきます。
4. 古くなっても誰も気づかない
文書は、書いた時点から少しずつ古くなっていきます。担当が替わった、取引先の窓口が変わった、手順が少し変わった、といった変化は、直す人が決まっていなければ文書に反映されず、一度でも古い情報で困った人はその文書を信用しなくなって、やがて誰も見なくなります。社内Wikiが使われなくなる理由と対策は「社内Wikiを無料で作る方法4ステップで解説」の記事でも紹介しています。
5. 何が足りないのかが見えない
1から4の理由に共通しているのは、集める側と使う側がつながっていないことです。書く側には、使う側が何を探して見つけられなかったのかが伝わらないので、何を書けば役に立つのかが分かりません。一方の使う側も、見つからなかったときは詳しい人に直接聞いて済ませるため、その質問は記録に残らず、会社として何の知識が足りないのかは見えないままになります。
何が足りないのかが見えないまま「とにかく書いて残そう」と呼びかけても、役に立つ知識は増えにくいのです。ナレッジ共有を立て直すときは、この5つ目の理由から手を付けると、ほかの4つもあわせて扱いやすくなります。
よくある対策が続かない理由
ナレッジ共有を進める対策としてよく挙がるのは、ツールを入れる、書くルールや評価を決める、担当者を決める、の3つです。どれも必要なことですが、それぞれが解けるのは5つの理由のうちの一部です。
対策 | 解けること | 残ること |
ツールを入れる | 置き場所がそろい、探しやすくなる | 書く手間と、何を書けばよいか分からないことは変わらない |
書くルールや評価を決める | 書かれる量が増える | 形だけの投稿が増えやすく、判断の決め手は出てきにくい |
担当者を決める | 古い文書が直されやすくなる | 担当者にも、何の知識が足りないのかは見えない |
3つに共通しているのは、どれも「知っている人が自分で書く」ことを前提にしている点です。書いてほしい知識ほど本人から出てきにくい以上、書く人に頼る形を続けていると、集める側の壁は残り続けます。そこで発想を変えて、使う側の質問から足りない知識を見つけ、書いてもらう代わりに聞き取って集める形にすると、何の知識が足りないかを見つけて、集めることにつなげやすくなります。評価や書く時間の確保、文書の更新を誰が持つかは、これとは別に決めておく必要があります。
集める仕組みと使う仕組みをセットにする
集める仕組みと使う仕組みをセットにするとは、社内の質問に答える仕組みと、足りない知識を集める仕組みを、1つの流れにつなぐことです。流れは次の5つの段階で回ります。

段階 | 何が起きるか |
1. 社内からの質問 | 社員が、仕事で困ったことをAIに質問する |
2. 社内資料から引用つきで答える | AIが社内の資料から答えを探し、根拠の資料を示して答える |
3. 答えられなかった質問が残る | 資料に答えが無かった質問が、一覧に残る |
4. 知っている人にAIが聞き取る | その答えを知っている人に、AIが質問して話を聞く |
5. 承認して社内の文書にする | まとめた内容を確かめてから、社内の文書に加える |
5で加わった文書は、次に同じような質問が来たとき、2の答えの根拠として使われます。使われるほど足りない知識が見つかり、見つかった所から知識が集まるので、集めることと使うことが互いを支え合う形になります。
社内からの質問で、足りない知識を見つける
この仕組みの起点は、書く人ではなく、知識を使う人の質問です。社員がAIに聞いて答えが返ってこなかった質問は、資料が無いのか、古いのか、探し方の問題なのかを調べる手がかりの一覧になり、「何を書けばよいか分からない」という集める側の悩みは、「この質問に答えられる知識を残してほしい」という具体的な頼みごとに変わります。
実際の記録から|3人が同じ症状を聞いていた
当社が相棒AIを提供している現場のうち2つで、社員の方が実際に聞いた質問の記録を見直しました(社名と細かな条件は伏せ、当社が試しに聞いた分は除いています)。
製造業の現場では、「無地の袋が寸法どおりに切れない」という同じ症状を、3人がそれぞれ質問していました。最初の人には「資料に該当する情報が見当たりませんでした」と返り、あとの2人には、袋の切れ具合の問題か、印刷されたマークの読み取りの問題かを、AIが聞き返していました。
お客様との打合せでこの質問を取り上げ、当社が資料を確かめたところ、この症状を扱った項目はありませんでした。部品のすり減りや袋の滑りといった、原因になりうる記載はあったものの、どれも「マークエラーが多発する」など別の症状の項目の中にしか無く、AIがマークの方へ聞き返したのもそのためと考えられます。
足りなかったのは資料そのものではなく、「この症状のときは、この原因を疑う」という結び付きで、それを知っているのは、日頃その機械を扱っている人たちです。同じ質問が何人からも来て、答えられなかった記録が残っていたので、それを見直して資料を確かめることで、資料のどこが足りないのかをつかめました。
もう1つの設備保全の現場で答えが返らなかったのは、機器の設定値や、設備が止まる条件の一覧、警報の一覧についての質問で、略語で聞かれた機器は、言い直しても答えが見つかりませんでした。どれも現場の人なら知っていそうなことですが、資料に無いのか、探し方の問題なのかまでは、まだ確かめていません。
書いてもらうのではなく、AIが聞き取る
足りない知識が分かったら、知っている人に書いてもらう代わりに、AIが質問して話を聞き取ります。白紙のページに向かうより、質問に答えるほうが本人の負担は軽く、当たり前になっている判断も、具体的に聞かれれば言葉になりやすいからです。
聞き方にもコツがあります。当社が開発している、対話から言葉になっていない知識を引き出すツール(co-think)では、「なぜそうしたのか」とたずねるより、「そのとき何を見て決めたか」「いつもと何が違ったか」とたずねることを基本にしています。理由を直接たずねられると、人は後から筋道を整えて説明しがちですが、何を見ていたかをたずねると、実際に判断の手がかりにしていたものが語られやすくなります。
集めた知識は、引用つきで答える形で使う
集めた知識も、置いておくだけでは探されません。社員が質問すると、AIが社内の資料から答えを探し、どの資料に書いてあったかを示して答える形にしておくと、使う側は探し方を知らなくても知識にたどり着けます。根拠の資料が示されるので、答えが古くなっていないかを使う人自身が確かめられ、古い文書に気づくきっかけにもなります。
当社の「相棒AI」は、社内の資料から引用をつけて答え、資料に無い内容を引用として出さないように作っています。答えられなかった質問は懸案として残り、管理する人は、何が聞かれ、何に答えられなかったかを見ることができます。
そして当社が開発中の「Knowledge Hub」は、相棒AIが残した懸案をもとに、知っている人にAIが質問し、答えをまとめて、承認を経て社内の文書にする仕組みです。当社は、使う側の相棒AIと、集める側の Knowledge Hub を、セットで使うものとして考えています。
日報を、AIが聞き取る場にする
集める仕組みの入り口として使いやすいのが、毎日の日報です。日報を書く習慣がある会社なら、新しく書く場を作らなくても、1日の終わりに知識を集める機会がすでに用意されていることになります。

AIに日報を書かせるだけでは、知識は残りにくい
日報とAIの組み合わせというと、メモや予定表から日報の文章をAIに書かせる使い方がよく紹介されています。書く手間は確かに減らせますが、残るのは今日やったことの要約で、そのとき何を見て判断したかは、もとのメモに書かれていなければ日報にも残りません。
1日の終わりに、AIが聞く3つの質問
そこで、日報をAIが書くのではなく、AIが本人に聞き取る形に変えます。やったことの報告はいつもどおりに受け取り、そのうえでAIが短く質問を重ねる形で、聞くのはたとえば次の3つです。
- 今日、いつもと違ったことはありましたか
- そのとき、何を見てどう判断しましたか
- 同じことが次に起きたら、ほかの人に何を伝えておきたいですか
毎日すべての質問に答えてもらう必要はありません。いつもと違ったことが無かった日は1問目で終わり、何かあった日だけ2問目と3問目に進む形にすれば、答える人の負担を小さくしたまま、知識になりそうな話だけを拾えます。
聞き取った日報を、知識の候補にする
聞き取った答えのうち、判断の決め手や、いつもと違うときの対応は、そのまま知識の候補になります。管理する人が候補を確かめて社内の文書に加えれば、先ほどの流れの4と5を、日報の中で少しずつ回せるようになります。
答えられなかった質問から集める方法が「足りない所を後から埋める」集め方だとすれば、日報の聞き取りは「起きたことをその日のうちに拾う」集め方です。2つの集め方を組み合わせると、知識の抜けを減らしやすくなります。
社内でナレッジ共有を始める4つの手順
集める仕組みと使う仕組みは、最初から会社全体で作る必要はありません。次の4つの手順で、1つの部署から小さく始めるのがおすすめです。

1. 対象の部署と業務を1つ決める
最初は、社内からの問い合わせが多い部署や、特定のベテランに質問が集まっている業務を1つ選びます。範囲を絞っておくと、どんな質問が来て、どの知識が足りないのかが見えやすくなります。
2. よく聞かれる質問を集める
選んだ部署に日頃どんな質問が来ているかを、メールや社内チャットの履歴、問い合わせの記録から集めます。あわせて、その部署の資料を読み込ませ、質問と答えを記録できるAIで答える形にしておけば、それ以降の質問と、答えられなかった質問が記録に残るようになります。
3. 答えられない質問を、知っている人に聞き取る
資料では答えられなかった質問を、その答えを知っている人にAIが聞き取ります。1回でたくさん聞こうとせず、質問を数件ずつに分けて聞くほうが、答える人も仕事の合間に続けやすくなります。
4. 足りない知識の一覧を毎月見る
答えられなかった質問の一覧を、毎月決まった日に見直します。同じ質問が何度も残っている所や、古い資料が引用されている所から手を付けると、困っている人の多い所から順に知識を足していけます。先ほどの製造業の現場のように、同じ症状を何人もが聞いている所は、資料のどこかが足りないという合図です。
ナレッジ共有でよくある質問
ナレッジ共有にAIを使うと、何が変わる?
社内の資料を読み込ませて答えさせるだけなら、今は一般のAIサービスでも手軽に始められます。ナレッジ共有にとって大きいのはその先で、何が聞かれ、何に答えられなかったかが見えるようになると、何を集めればよいかが決まり、集める側の悩みが具体的な頼みごとに変わります。
社内の情報をAIに入れても大丈夫?
社外に出してはいけない情報を一般向けのAIサービスに入れる前に、入力した内容がサービスの学習に使われない設定になっているか、会社として使ってよい環境かを確かめておく必要があります。設定の確かめ方と選び方は「生成AIに機密情報を学習させない方法」の記事で詳しく解説しています。
社内Wikiとは何が違う?
社内Wikiは、知識を書いて置いておく場所です。この記事で紹介した仕組みは、置き場所に加えて、質問から足りない知識を見つけ、聞き取って集める流れまでを含んでいます。すでに社内Wikiがある会社なら、Wikiの文書をAIが答えるときの資料として使い、足りない所を聞き取りで足していく形にできます。
少人数の会社でも始められる?
始められます。人数が少ない会社ほど、1人のベテランに知識が集まりやすく、その人が休んだり辞めたりしたときの影響も大きくなるので、まずはその人によく来る質問を集めるところから始めてみてください。
まとめ|ナレッジ共有は、集めると使うをつなぐと回り始める
ナレッジ共有が難しいのは、書く手間に見返りがないこと、何を書けばよいか分からないこと、探しても見つからないこと、古くなっても気づかないこと、そして何が足りないのかが見えないことが重なるからです。ツールやルールで書く量を増やすより、社内の質問から足りない知識を見つけ、知っている人にAIが聞き取って文書にし、次の質問で引用して答える流れにすると、集めることと使うことがつながります。
- ナレッジ共有の難しさは、集める側・使う側・その間の3か所で起きる
- 書いてもらうより、質問から足りない知識を見つけて聞き取る
- 集めた知識は、引用つきで答える形で使う
- 日報は、AIが書く場ではなく、AIが聞き取る場にする
まずは1つの部署で、よく聞かれる質問を集めるところから始めてみてください。
この記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。



