安全衛生教育とは?法律で決まった種類と、「受けさせただけ」で終わらせず現場の知識につなげる考え方

安全衛生教育の意味と、労働安全衛生法で決まっている雇入れ時の教育・特別教育・職長教育などの種類、雇入れ時に教える8つの項目を条文から整理しました。そのうえで、教育を受けさせただけで終わらせず、ベテランの頭の中にある現場の知識を教育につなげるための考え方を紹介します。
目次
1.安全衛生教育とは
2.法律で決まっている安全衛生教育の種類
2-1.雇入れ時・作業内容変更時の教育
2-2.特別教育
2-3.職長等の教育と、努力義務の教育
2-4.行わなかったときの罰則
3.安全衛生教育の進め方
3-1.1. その人が就く業務と、必要な教育を洗い出す
3-2.2. 8つの項目を、自社の業務の言葉に置き換える
3-3.3. 教えたことと、省いたことを記録する
4.「受けさせただけ」の教育が、事故を防ぎきれない理由
4-1.事故を防ぐ知識の多くは、テキストではなく人の頭の中にある
4-2.ベテランが辞めると、教育の中身も一緒に減る
4-3.ヒヤリとした経験が、教育に戻ってこない
5.教育を現場の知識につなげる3つの考え方
5-1.1. ベテランに「何を見ていたか」を聞いて書き残す
5-2.2. 聞き取った知識を、8項目のどこに入るかで整理する
5-3.3. 教えたあとも、聞かれたときに答えられるようにする
6.当社の相棒AIでできること
7.まとめ|安全衛生教育は、現場の知識を足していく教育にする
新しい人を雇い入れたので安全衛生教育をしなければならない、と分かってはいても、何をどこまで教えれば足りるのか、毎回迷う担当者の方は多いのではないでしょうか。市販のテキストや動画を見せて、受講の記録に名前を書いてもらえば、形のうえでは教育を行ったことになります。
ただ、現場で長く働く人ほど、事故やヒヤリとした場面を防いでいるのはテキストに載っていない小さな知識だと知っています。「この機械は音が変わったら止める」「洗浄のあとはこのセンサーが誤作動しやすい」といった知識は、教育の時間ではなく、ベテランの横で働くうちに伝わってきたものです。
安全衛生教育は、法律で決まった項目を教えることが出発点ですが、事故を防ぐ力になるのは、その職場にしかない知識を教育の中身に足していったときです。この記事では、まず安全衛生教育の種類と雇入れ時に教える項目を条文に沿って整理し、そのうえで、教育を「受けさせただけ」で終わらせないためのデイワンの考え方を紹介します。
安全衛生教育とは
安全衛生教育は、働く人がけがをしたり、健康を損ねたりしないように、仕事に関わる危険とその防ぎ方を教えることです。労働安全衛生法では、労働者を雇い入れたときや作業内容を変えたとき、危険や有害なおそれのある業務に就かせるときなどに、事業者が教育を行うことを定めています。
ここで大事なのは、教育を行う責任が働く人ではなく事業者にあることです。正社員かどうかで分ける定めは条文に無いため、パートやアルバイトを雇い入れたときも、その人が就く業務に応じた教育が必要になります。
法律で決まっている安全衛生教育の種類
労働安全衛生法と労働安全衛生規則で決まっている主な教育は、次の5つです。義務になっているものと、努めるものとして定められているものがあるので、表で分けて示します。

教育 | いつ・誰に | 根拠 | 扱い |
雇入れ時の教育 | 労働者を雇い入れたとき | 法第59条第1項・規則第35条 | 義務 |
作業内容変更時の教育 | 労働者の作業内容を変えたとき | 法第59条第2項・規則第35条 | 義務 |
特別教育 | 規則で決めた危険・有害な業務に就かせるとき | 法第59条第3項・規則第36条 | 義務 |
職長等の教育 | 政令で決めた業種で、新たに職長など現場で直接指導・監督する立場に就いたとき | 法第60条・規則第40条 | 義務 |
危険有害業務に就いている人への教育 | 危険・有害な業務にすでに就いている人 | 法第60条の2 | 努力義務 |
出典: 労働安全衛生法 第59条・第60条・第60条の2、労働安全衛生規則 第35条・第36条・第40条(e-Gov 法令検索、2026年11月8日に確認)
雇入れ時・作業内容変更時の教育
雇い入れたときと作業内容を変えたときは、規則第35条にもとづき「遅滞なく」教育を行います。教える項目は次の8つで、その人が就く業務の安全や衛生に必要なものを選んで教えます。
No. | 規則第35条第1項に書かれている項目 |
1 | 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること |
2 | 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること |
3 | 作業手順に関すること |
4 | 作業開始時の点検に関すること |
5 | 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること |
6 | 整理、整頓及び清潔の保持に関すること |
7 | 事故時等における応急措置及び退避に関すること |
8 | 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項 |
同じ条の第2項では、項目の全部または一部について十分な知識と技能があると認められる人には、その項目の教育を省いてよいとしています。経験者を雇ったときでも、省けるのは「十分な知識と技能がある」と認められる項目だけなので、何を省いたかを記録しておくと後で説明しやすくなります。
特別教育
研削といしの取替え、アーク溶接、電気の取扱いなど、規則第36条に並ぶ危険・有害な業務に就かせるときは、その業務についての特別教育が必要です。特別教育を行ったときは、受けた人と科目などの記録を作り、3年間保存することが規則第38条で決まっています。
職長等の教育と、努力義務の教育
職長など、作業する人を直接指導・監督する立場に新たに就いた人には、政令で決めた業種で、作業方法の決め方や人の配置、指導・監督の方法などの教育を行います(法第60条)。また、危険・有害な業務にすでに就いている人に対しては、安全衛生の水準を上げるための教育を行うよう努めることが定められています(法第60条の2)。
行わなかったときの罰則
雇入れ時・作業内容変更時の教育(法第59条第1項・第2項)を行わなかったときは、50万円以下の罰金の対象になります(法第120条)。特別教育(法第59条第3項)を行わなかったときは、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(法第119条)。
安全衛生教育の進め方
教育の進め方は、法律で決まっている項目を押さえる段と、自社の現場に合わせる段に分けると考えやすくなります。
1. その人が就く業務と、必要な教育を洗い出す
最初に、雇い入れた人や作業内容を変えた人が、どの業務に就くのかを書き出します。そのなかに規則第36条の業務が含まれていれば特別教育が、職長の立場に就くなら職長等の教育が加わります。
2. 8つの項目を、自社の業務の言葉に置き換える
規則第35条の8項目は、どの業種にも当てはまるように抽象的に書かれています。そのまま読み上げても、新しい人は自分の持ち場で何に気をつければよいかが分かりません。
たとえば「作業開始時の点検に関すること」であれば、どの機械の、どこを、何を見て、どうなっていたら止めるのかまで、自社の業務の言葉に置き換えて教えます。外部の講習や市販の教材は、法律の考え方や業種共通の危険を学ぶには役立ちますが、この置き換えまではしてくれません。
3. 教えたことと、省いたことを記録する
誰に、いつ、何を教えたか、経験者について何を省いたかを記録します。特別教育は記録の保存が義務で、雇入れ時の教育も記録があれば、あとで教えた中身を見直すときの手がかりになります。
「受けさせただけ」の教育が、事故を防ぎきれない理由
ここからは、デイワンの考え方です。法律で決まった項目を教えることは欠かせませんが、それだけでは現場の事故を防ぐ力として足りない、と私たちは考えています。
事故を防ぐ知識の多くは、テキストではなく人の頭の中にある
8項目のうち「作業手順」や「作業開始時の点検」は、手順書や点検表にまとめられていることが多いでしょう。ただ、点検表に「異常なし」と書く前に、ベテランが何を見て、何を聞いて、どこを触って判断しているかまでは、たいてい書かれていません。

当社は、技術継承の記事を書くにあたり、架空の食品工場の設備保全のベテランをAIに演じさせ、9つの知識を仕込んで、どれだけ引き出せるかを試しました。仕込んだのは「充填機のカムの音が変わったらベアリングのすり減り」「夏は工場内が暑くなりエアコンプレッサーの圧力が下がる」「新人は給油を入れすぎる」といった、事故や設備の停止につながる知識です。
ベテラン役に「6つの問い」の表を自分で埋めてもらうと、9つのうちそのまま使える形で出たのは1つで、4つは一部だけ、4つは出ませんでした。本人に悪気はなくても、聞かれなければ出てこない知識が多く、出てきても「音で分かる」「慣れ」のように、新しい人がそのまま使えない言葉になりがちでした。(試しの詳しい結果は「技術継承ができない理由と、ベテランが辞める前にAIで聞き取る方法」で紹介しています。架空の業務での1回の試しで、実際の現場での結果ではありません。)
このような知識は「暗黙知」と呼ばれ、本人も言葉にしにくいことが知られています(「暗黙知とは?形式知との違いとSECIモデルを分かりやすく解説|言葉にする聞き方まで」)。安全衛生教育がテキストと動画だけで終わると、こうした知識は教育の外に置かれたままになります。
ベテランが辞めると、教育の中身も一緒に減る
現場の知識がベテランの頭の中にしか無い状態では、そのベテランが異動したり退職したりすると、教えられる中身も一緒に減ってしまいます。教育の記録は残っていても、肝心の「何を見て止めるか」を教えられる人がいない、ということが起こります。
これは安全衛生に限らず、特定の人しか分からない業務が抱える問題と同じ構造です(「属人化を解消する手順と事例|答えられなかった質問から見つけ、AIで聞き取って残す」)。
ヒヤリとした経験が、教育に戻ってこない
事故には至らなかったものの、ヒヤリとした場面は日々の現場で起きています。その経験が報告書や朝礼で一度共有されても、次の年の雇入れ時の教育の中身に反映されていなければ、新しい人は同じ場面で同じようにヒヤリとすることになります。
報告書の書き方そのものは「再発防止策の書き方と例文|報告書の項目と、「注意します」で終わらせない記録の残し方」でまとめています。大切なのは、書いた報告書を、次の教育で使う資料の側に戻す流れをつくることです。
教育を現場の知識につなげる3つの考え方
では、法律で決まった教育を、現場の知識につなげるにはどうすればよいでしょうか。当社は、次の3つの考え方を大切にしています。

1. ベテランに「何を見ていたか」を聞いて書き残す
ベテランに「気をつけていることを書いてください」と頼んでも、先ほどの試しのように、出てくる知識は限られます。当社の聞き取りでは、「なぜ」よりも「そのとき何を見ていたか」「困った出来事を起きた順に話してください」と聞く方が、具体的な手がかりが出やすいと考えています。
先ほどの試しでも、同じベテラン役にAIが一つずつ聞き取った方は、9つのうち7つが使える形で出ました。表を自分で埋めた方との差は、音の違いや当てる場所といった手がかりの細かさと、判断の決め手でした。聞き取りの具体的な進め方は「業務引継書テンプレート|AIに聞き取らせて作る、後任が困らない書き方」で、プロンプトと一緒に紹介しています。
2. 聞き取った知識を、8項目のどこに入るかで整理する
聞き取った知識は、規則第35条の8項目に沿って並べると、雇入れ時の教育の資料にそのまま足せます。たとえば、想定の例として、次のように整理できます。
規則第35条の項目 | 聞き取った知識の例(想定の例) |
1 機械等の危険性と取扱い | 充填機のカムの音が低く変わったら、止めて保全に知らせる |
4 作業開始時の点検 | 夏は始業前にエアコンプレッサーの圧力を見て、下がっていたら予備機の準備を頼む |
7 事故時等の応急措置と退避 | 異物が混ざるおそれがあるときは、上長に聞く前にラインを止めてよい |
こうして項目ごとに書き足していくと、テキストと動画の教育が、自社の現場に合った教育に少しずつ変わっていきます。ヒヤリとした場面の報告書も、同じ項目に沿って足していけば、次の年の新しい人に届きます。
3. 教えたあとも、聞かれたときに答えられるようにする
雇入れ時の教育で一度教えても、新しい人がすべてを覚えていられるわけではありません。現場で迷ったとき、近くのベテランが忙しくて聞けないこともあります。
そのため、教育で使った資料を、あとから聞かれたときに引ける形で残しておくことが大切です。資料が増えてくると探すのが難しくなりますが、社内の資料から答えるAIを使えば、「この機械の始業点検で何を見ればいいか」と聞いたときに、該当する資料の箇所にたどり着けます(作り方は「社内AIの構築方法|社内資料で答えるAIの作り方と、使われなくなる理由」で説明しています)。
ただし、安全に関わる判断をAIの答えだけに任せるのは危険です。AIは資料を探して示す役にとどめ、止める・止めないの判断は、決められた人と手順で行うように、社内のルールで決めておきます(「生成AIの社内ルールの作り方|そのまま直して使えるひな型(条項の例)つき」)。
当社の相棒AIでできること
デイワンの「相棒AI」は、手順書や点検表、報告書などの社内の資料から、どの資料のどこに書いてあるかの引用をつけて答えます。資料に無い内容を、引用があるかのように答えないように作っています。
もう一つの特徴は、答えられなかった質問が懸案として残ることです。新しい人が聞いて答えが見つからなかった質問は、まだ教育の資料になっていない現場の知識の一覧になります。その一覧をもとにベテランに聞き取り、資料に足していけば、安全衛生教育の中身を現場の側から育てていくことができます。
まとめ|安全衛生教育は、現場の知識を足していく教育にする
安全衛生教育は、労働安全衛生法で決まった雇入れ時・作業内容変更時の教育、特別教育、職長等の教育などを、決まった項目に沿って行うことが出発点です。そのうえで、ベテランの頭の中にある知識やヒヤリとした経験を項目ごとに足していくと、教育は「受けさせただけ」の手続きから、現場で事故を防ぐ力に変わっていきます。
- 雇入れ時と作業内容変更時の教育は、規則第35条の8項目から、その人の業務に必要なものを選んで教える
- 規則第36条の業務には特別教育が必要で、記録は3年間保存する
- 8項目は、自社の業務の言葉(どの機械の、どこを、何を見て)に置き換えて教える
- ベテランには「何を見ていたか」を聞き、知識を8項目に沿って資料に足していく
- 教えたあとも聞かれたら資料を引ける形にし、安全に関わる判断は決められた人と手順で行う
デイワンの相棒AIは、社内の資料から引用をつけて答え、答えられなかった質問を懸案として残します。現場の知識を教育や日々の問い合わせで使える形にしたい方は、お気軽にご相談ください。
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よくある質問
- 安全衛生教育はパートやアルバイトにも必要ですか?
- 必要です。労働安全衛生法第59条は、雇い入れた労働者に教育を行うことを事業者に求めており、正社員かどうかで分ける定めはありません。その人が就く業務に応じて、必要な項目を教えます。
- 雇入れ時の安全衛生教育では何を教えればよいですか?
- 労働安全衛生規則第35条に、機械や原材料の危険性と取扱い、保護具、作業手順、作業開始時の点検、疾病の予防、整理整頓、事故時の応急措置と退避など8つの項目が並んでいます。そのうち、その人の業務の安全や衛生に必要なものを教えます。
- 経験者を雇ったときも教育は必要ですか?
- 規則第35条第2項により、十分な知識と技能があると認められる項目は省くことができます。省けるのはその項目だけなので、何を省いたかを記録しておくと、後から説明しやすくなります。
- 安全衛生教育を行わないと罰則はありますか?
- 雇入れ時・作業内容変更時の教育を行わないと50万円以下の罰金(法第120条)、特別教育を行わないと6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法第119条)の対象になります。
- 市販の教材や外部の講習だけで十分ですか?
- 法律の考え方や業種共通の危険を学ぶには役立ちますが、自社の機械のどこを何を見て判断するかといった現場の知識までは含まれません。ベテランへの聞き取りやヒヤリとした経験の報告をもとに、自社の資料を足していくことをおすすめします。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






