人材育成とは?目的・3つの手法・進め方と、教える人と時間が足りない会社のための考え方

人材育成の意味と目的、OJT・Off-JT・自己啓発の3つの手法、方針から振り返りまでの5つの進め方を整理します。厚生労働省の調査から、育成の詰まりが「教える人と時間」にあることを読み解き、教える中身を分けて考えるデイワンの考えを紹介します。
「人材育成に力を入れたい」と考えても、研修を増やせばよいのか、OJTを見直せばよいのか、どこから手を付けるかで迷う会社は少なくありません。現場では先輩が自分の仕事で手一杯になり、計画を立てても続かない、という声もよく聞きます。
この記事では、人材育成の意味と目的、代表的な3つの手法、進め方の5つのステップを順に整理します。そのうえで、厚生労働省の調査から育成がどこで詰まりやすいかを読み解き、当社の考えをお伝えします。
先に結論を書くと、人材育成でまず見直したいのは「何を、誰が教えるか」の分け方です。調査で一番多い悩みは育成の方法が分からないことではなく、教える人と時間が足りないことでした。だとすれば、研修を足すより先に、教える中身を「人が教えるもの」「資料で伝えるもの」に分け、先輩の時間を人にしか伝えられない所に集めるほうが現実に合っていると考えています。
人材育成とは|人材開発・能力開発との違い
人材育成とは、会社の目標を達成するために、社員が仕事に必要な知識や技能、考え方を身につけ、より大きな仕事を任せられるように育てていく取り組みのことです。入社したばかりの新人を一人前にすることから、中堅社員を次のリーダーに育てること、管理職のマネジメントの力を高めることまで、対象は全社員に及びます。
よく似た言葉に「人材開発」と「能力開発」があります。使い分けは会社や文献によって違いますが、人材開発は社員の能力を組織として計画的に引き出す仕組みづくりを、能力開発は個々の知識や技能を伸ばすことを指して使われることが多いようです。厚生労働省も、職業能力開発の施策を「人材開発」としてまとめています。この記事では、これらをまとめて、会社が社員を育てる取り組み全体を「人材育成」と呼びます。
言葉 | よく使われる意味 |
人材育成 | 会社の目標に向けて、社員を育てる取り組み全体 |
人材開発 | 社員の能力を組織として計画的に引き出す仕組みづくり |
能力開発 | 個々の社員の知識や技能を伸ばすこと |
人材育成の目的
人材育成の目的は、大きく3つに分けられます。1つ目は、今の仕事の質と速さを上げることです。仕事のやり方がそろえば、ミスや手戻りが減り、同じ人数でもこなせる量が増えます。
2つ目は、仕事を特定の人に頼りきらないようにすることです。ある人しか分からない仕事が多いと、その人が休んだり辞めたりしたときに仕事が止まります。こうした状態(属人化)をほどく手順は「属人化を解消する手順」で詳しく書いています。
3つ目は、次の仕事を任せられる人を増やすことです。新しい事業やベテランの退職に備えて、判断を任せられる人を育てておくことは、会社が続いていくための土台になります。ベテランの判断を次の世代に渡す考え方は「後進の育成とは?」にまとめました。
人材育成の3つの手法|OJT・Off-JT・自己啓発
人材育成の手法は数多くありますが、基本になるのはOJT・Off-JT・自己啓発の3つです。研修会社が紹介する手法の多くも、この3つのどれかに入ります。

手法 | 内容 | 向いていること |
OJT | 職場で、仕事をしながら上司や先輩が教える | その会社のやり方や判断の手がかり |
Off-JT | 職場を離れた研修や講座で学ぶ | 業界に共通する知識や基本の考え方 |
自己啓発 | 社員が自分で学び、会社が費用や時間を支える | 資格や専門性など、本人が伸ばしたい力 |
OJTは、自社の仕事のやり方をそのまま伝えられる一方で、教える先輩の力量や忙しさで中身がばらつきやすい手法です。進め方は「OJT研修とは?進め方の4段階と、教える余裕がない現場で回す方法」で詳しく書いています。Off-JTは、まとまった知識を効率よく伝えられますが、学んだことを職場で使う場がないと身につきにくくなります。自己啓発は本人の意欲に左右されるため、会社としては費用の補助や学ぶ時間の確保で後押しする形になります。
どれか1つに頼るより、伝えたい中身に合わせて組み合わせるのが基本です。たとえば、業界の基本はOff-JTで学び、自社での使い方はOJTで教え、さらに深めたい人は自己啓発で伸ばす、という分け方です。
数字で見る人材育成の現状|詰まりは「教える人と時間」
厚生労働省が2026年7月31日に公表した「令和7年度 能力開発基本調査」から、日本の会社の人材育成の現状を見てみます。

調査の項目 | 割合 |
Off-JTを実施した事業所 | 72.6% |
計画的なOJTを実施した事業所 | 64.1% |
計画的なOJTを実施していない事業所 | 35.8% |
Off-JT・自己啓発支援のどちらにも費用を出していない企業 | 45.5% |
能力開発や人材育成に何らかの問題がある事業所 | 80.1% |
問題点:指導する人材が不足している | 59.5% |
問題点:人材育成を行う時間がない | 45.5% |
出典:厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』」調査結果の概要(2026年7月31日公表)
計画的なOJTを実施した事業所を職層別に見ると、正社員の新入社員では52.3%ですが、中堅社員では38.7%、管理職層では24.9%と下がっていきます。新人のうちは計画を立てて教えても、その先の育成は現場任せになりやすいことがうかがえます。
人材育成に何らかの問題があるとした事業所は80.1%で、問題点の内訳では「指導する人材が不足している」が59.5%と最も多く、「人材を育成しても辞めてしまう」51.6%、「人材育成を行う時間がない」45.5%と続きます。一方で「人材育成の方法がわからない」は10.0%にとどまりました。やり方は分かっていても、教える人と時間が足りない、というのが多くの職場の実情だと読み取れます。
人材育成の進め方|5つのステップ
ここからは、人材育成を進める手順を5つのステップで整理します。会社の規模を問わず使える、骨組みだけの手順です。

ステップ1|育成の方針を決める
最初に、会社の目標から逆算して、どんな人を何人、いつまでに育てたいかを決めます。「3年後に新しい拠点を任せられる人を2人」「ベテランが退職する前に、その判断を引き継げる人を1人」のように、仕事の言葉で書くと現場に伝わりやすくなります。
ステップ2|求める力と今の力を一覧にする
次に、仕事ごとに必要な知識や技能を書き出し、誰がどこまでできるかを一覧(スキルマップ)にします。一覧にすると、特定の人しかできない仕事や、教える人が足りない分野が見えてきます。
ステップ3|対象ごとに計画を立てる
新人・中堅・管理職では、伸ばしたい力が違います。新人には仕事の基本と会社のやり方を、中堅には後輩に教える力と判断の幅を、管理職には人を育て任せる力を、と対象ごとに目標と手法を決めます。新人の育て方は「新人教育の進め方」、ベテランの技能を計画的に渡す方法は「スキトラ(スキルトランスファー)の計画と進め方」で詳しく書いています。
ステップ4|実施する
計画に沿って、OJT・Off-JT・自己啓発を組み合わせて進めます。このとき、教える中身のうち、何度も同じ説明をしているものは資料にしておくと、先輩の時間が残ります。
ステップ5|振り返り、計画を直す
決めた期間ごとに、一覧の「できる」が増えたかを確かめ、計画を直します。育てた人が辞めてしまう悩みも多いので、本人と話す場(1on1など)を定期的に持ち、仕事の手応えや次に任せたい仕事をすり合わせておくと、育成と定着の両方に効きます。
デイワンの考え|教える中身を3つに分け、先輩の時間を人にしか伝えられない所に使う
調査が示すとおり、育成の詰まりの多くは教える人と時間にあります。そこで当社は、育成で伝える中身を次の3つに分けて考えることを勧めています。

中身 | 例 | 誰が伝えるか |
手順 | 作業の順番、書類の書き方、システムの操作 | 資料(マニュアル・手順書) |
資料に書いてあることへの質問 | 「この書類の締め日は」「この型番の点検の間隔は」 | 資料を引けば答えられる仕組み |
判断の手がかり | 「この数字が出たら、まず現場を疑う」「この言い方をする顧客は急いでいる」 | 人(上司・先輩) |
手順は資料に書けますが、判断の手がかりは本人も意識していないことが多く、資料に残りにくいものです。言葉にしにくいこうした知識(暗黙知)の扱い方は「暗黙知とは?形式知との違いとSECIモデル」で詳しく書いています。
当社は、技術継承の記事を書くにあたって、ベテランの知識を引き出す聞き取りを、架空の業務(AIが演じたベテラン)で試しました。表に自分で書き込んでもらう形では、仕込んだ9つの知識のうち出たのは1つで、一部だけ出たものが4つでしたが、AIが場面ごとに聞き取る形では7つが出ました。試しは架空の業務での1回ずつで、どの会社でも同じ結果になるとは言えません。それでも、判断の手がかりは「書いてもらう」より「聞く」ほうが出やすい、という手応えは得られました。
先輩の時間を、資料に書けることの説明ではなく、判断の手がかりを伝えることと、聞き取りに答えることに使う。これが、教える人と時間が足りない会社での人材育成の現実的な形だと考えています。聞いても答えが無かった質問は、資料に足りない所の目印として集めておくと、次に何を書き足すかが決まります。
人材育成でよくある失敗
最後に、人材育成でつまずきやすい点を挙げます。どれも、手法そのものより進め方の問題です。
- 研修を受けさせて終わる:学んだことを使う仕事を用意しないと、Off-JTの中身は職場で使われないまま忘れられます
- OJTを先輩に丸投げする:何を教えるかを決めずに任せると、教える中身が先輩ごとにばらつき、忙しい時期には止まります
- 新人の時期だけ計画を立てる:調査でも中堅・管理職の計画的なOJTは少なく、その先の育成が抜けやすくなります
- 同じ説明を何度も口で繰り返す:資料に書けることまで人が説明していると、教える時間はいつまでも足りません
- 育てた人と話す場がない:辞めてしまう悩みは2番目に多く、仕事の手応えや次の目標をすり合わせる場が要ります
まとめ|人材育成は「何を、誰が教えるか」から見直す
人材育成は、会社の目標に向けて社員を育てる取り組み全体のことで、OJT・Off-JT・自己啓発の3つの手法を組み合わせて進めます。調査からは、多くの会社が育成の方法ではなく、教える人と時間の不足に悩んでいることが分かりました。
- 人材育成の目的は、仕事の質を上げる・属人化をほどく・次を任せられる人を増やすの3つ
- 手法はOJT・Off-JT・自己啓発の3つを、伝えたい中身に合わせて組み合わせる
- 進め方は、方針→一覧(スキルマップ)→対象ごとの計画→実施→振り返りの5つのステップ
- 育成の詰まりは「教える人と時間」。手順は資料に、判断の手がかりは人に、と分ける
- 判断の手がかりは、書いてもらうより聞き取るほうが出やすい
当社は、社内の資料から引用をつけて答え、答えられなかった質問を一覧に残すAI「相棒AI」を作っています。資料に書いてあることへの質問をAIが受け持てば、先輩の時間を判断の手がかりを伝えることに回せます。育成の負担の分け方から相談したい場合は、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- 人材育成とは何ですか?
- 会社の目標を達成するために、社員が仕事に必要な知識や技能、考え方を身につけ、より大きな仕事を任せられるように育てていく取り組みのことです。新人から管理職まで全社員が対象になります。
- 人材育成と人材開発の違いは何ですか?
- 使い分けは会社や文献によって違いますが、人材育成は社員を育てる取り組み全体を、人材開発は社員の能力を組織として計画的に引き出す仕組みづくりを指して使われることが多いようです。
- 人材育成の代表的な手法は何ですか?
- 職場で仕事をしながら教えるOJT、職場を離れた研修で学ぶOff-JT、社員が自分で学ぶ自己啓発の3つです。伝えたい中身に合わせて組み合わせるのが基本です。
- 人材育成はどんな手順で進めればよいですか?
- 育成の方針を決める、求める力と今の力を一覧(スキルマップ)にする、対象ごとに計画を立てる、実施する、振り返って計画を直す、の5つのステップで進めます。
- 人材育成がうまく進まない一番の理由は何ですか?
- 厚生労働省の令和7年度 能力開発基本調査では、問題点として「指導する人材が不足している」が59.5%と最も多く、「人材育成を行う時間がない」も45.5%でした。「方法がわからない」は10.0%で、方法より教える人と時間の不足が大きな壁になっています。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






