AI研修とは?企業が選ぶときに比べる7つの点と、研修のあと社内で使い続ける進め方

企業がAI研修を選ぶときに比べる7つの点を、対象別の4つの種類と形式の違いとあわせて解説します。研修のあとにAIが使われなくなる理由と、社内で使い続けるための4段の進め方、題材を自社の資料にする考え方まで紹介します。
生成AIを社員に使ってもらおうと、AI研修を検討する会社が増えています。ところが、研修を受けた直後は盛り上がったのに、1か月たつと使っているのは一部の人だけで、ほかの人は元のやり方に戻っている、という話もよく聞きます。研修会社やサービスの数も多く、どれを選べばよいのか、比べる観点そのものが分からないという担当者の方も多いのではないでしょうか。
AI研修でつまずきやすいのは、研修の中身よりも、研修で何を持ち帰り、翌日からどの業務で使うのかが決まっていないことです。使い方を覚えても、自分の業務で使う場面と、社内で使ってよい範囲が決まっていなければ、使う手が止まってしまいます。
AI研修は、対象と目的を先に決め、題材を自社の業務と資料にし、研修のあとに使う場面・決まり・相談先まで用意する前提で選ぶと、社内に残りやすくなります。この記事では、AI研修の種類、選ぶときに比べる7つの点、研修のあと社内で使い続けるための進め方を、受ける会社の担当者の目線で説明します。
AI研修とは|何を身につける研修か
AI研修は、社員が業務でAIを使えるようにするための研修です。ChatGPT・Copilot・Claude などの生成AIの使い方、指示文(プロンプト)の書き方、社内の情報を扱うときの注意、業務のどこにAIを使うかの考え方などを学びます。エンジニア向けには、AIを組み込んだシステムの作り方や機械学習を扱う研修もあります。
「使い方」の研修と「業務に組み込む」研修
AI研修の中身は、大きく2つに分けて考えると選びやすくなります。1つは、AIの得意なこと・苦手なこと、操作や指示文の型を学ぶ「使い方」の研修です。もう1つは、自社の業務のうちAIに任せる所を選び、実際の資料で試し、手順として決める「業務に組み込む」研修です。
前者は社員全体の土台として欠かせませんが、前者だけで終わると、受講した人が自分で業務への当てはめを考えることになり、ここで手が止まりやすくなります。会社としてAIを使う効果を出したいなら、後者まで含めて計画すると、研修の成果が業務の変化として見えやすくなります。
対象別に分けるAI研修の4つの種類
AI研修は、受ける人によって目的と中身が変わります。全員に同じ研修をするより、対象ごとに到達点を分けた方が、研修の時間を無駄にしにくくなります。

対象 | 目的 | 主な中身 | 研修で残したいもの |
全社員 | 自分の業務で、AIを安全に使い始める | 得意・苦手、指示文の型、社内で使うときの決まり | 業務で使える指示文の型 |
部門の担当者 | 部門の業務のうち、AIに任せる所を決める | 業務の洗い出し、部門の資料で試す | AIに任せる業務の一覧 |
管理職・経営に近い方 | どの業務にAIを使い、どう広げるかを決める | 業務の棚卸し、任せる順番、効果の確かめ方 | AI活用の進め方の計画の案 |
開発者・情報システム | AIを組み込んだ仕組みを作り、守る | AIの組み込み方、情報の扱い、運用 | 社内で作る・選ぶときの判断の基準 |
特に見落とされやすいのが管理職向けです。社員が使い方を覚えても、どの業務で使ってよいか、使った結果をどう確かめるかを決める人がいないと、使うかどうかが個人の判断に任されたままになります。全社員向けの研修と同じ時期に、管理職が任せる業務と順番を決める時間を取っておくと、研修のあとの動きが早くなります。
AI研修を選ぶときに比べる7つの点
研修会社やサービスを比べるときは、次の7つを見ると違いがつかみやすくなります。

比べる点 | 確かめること |
1. 対象と到達点 | 誰が受け、研修の終わりに何ができるようになるかが書かれているか |
2. 題材 | 一般的な例か、自社の業務と資料を題材にできるか |
3. 研修で残るもの | 指示文の型・業務の一覧・手順書など、持ち帰れる成果物があるか |
4. 情報の扱い | 研修で使う資料をAIに入れてよいか、どのAIを使うかを事前に決められるか |
5. 形式 | eラーニング・オンライン・講師が来る対面のどれか、人数と時間 |
6. 講師 | 講師自身が業務でAIを使っているか、質問にその場で答えられるか |
7. 研修のあと | 使ってみてつまずいた所を聞ける場があるか |
なかでも差が出やすいのは、2の題材と3の研修で残るものです。一般的な例文で練習した研修は分かりやすい反面、自分の業務に置き換える作業が受講者に残ります。自社の業務と資料を題材にできる研修なら、研修の日にそのまま使える形が手元に残ります。
4の情報の扱いも、研修の前に必ず確かめておきたい点です。自社の資料を題材にする場合は、どの資料を使ってよいか、使うAIのサービスが入力した内容をどう扱うかを、研修会社と事前に決めておきます。生成AIで情報が漏れる経路と対策は「ChatGPT・生成AIの情報漏洩はなぜ起きる?」で詳しく説明しています。
形式ごとの向き不向き
研修の形式は、目的に合わせて選びます。eラーニングは、全社員に同じ基礎を自分の時間で学んでもらうのに向いています。オンラインの研修は、拠点が離れていても同じ時間に集まり、質問しながら進めたいときに使いやすい形です。講師が来る対面の研修は、部門の資料を前にして業務の洗い出しや試しを一緒に行う、業務に組み込む研修に向いています。
基礎はeラーニングで先に済ませ、部門や管理職の研修は対面で行う、というように組み合わせる方法もあります。
研修のあとに使われなくなる理由
研修のあとにAIが使われなくなるとき、原因は受講者のやる気よりも、職場の側の準備にあることが多いと考えています。よくあるのは次の4つです。
- 使う場面が決まっていない: 「何にでも使える」と教わっても、自分のどの業務で使うかが決まっていないと、忙しい日には元のやり方に戻ります
- 使ってよい範囲が分からない: 社内の資料や顧客の情報を入れてよいかが分からず、安全側に倒して使わなくなります
- 答えが自社の事情に合わない: 一般的な答えしか返らず、自社の決まりや過去の経緯に合わないため、結局自分で調べ直すことになります
- 困ったときの相談先が無い: うまくいかなかったときに聞ける人がいないと、一度の失敗でやめてしまいます
社内で導入したAIツールが使われない理由の切り分けは「Copilotが使えないと感じる理由と見直し方」でも扱っています。研修だけで解決しようとせず、この4つに職場の側で手を打つことが、研修の効果を残す近道です。
研修のあと社内で使い続けるための4段
研修の効果を残すには、研修の前と後に、次の4段を用意しておきます。

1. 使う業務を先に決める
研修の前に、部門ごとにAIを使う業務を1〜3個選んでおきます。議事録の要約、問い合わせへの返答の下書き、社内規程の確認など、毎週のように発生し、間違えても人が直せる業務から始めると、効果も確かめやすくなります。研修はその業務を題材に行い、受講者が翌日に同じ作業で使える状態にして終えます。
2. 使ってよい範囲を決まりにする
どの情報をAIに入れてよいか、どのサービスを使うか、出てきた答えを誰が確かめるかを、社内の決まりとして文書にします。研修の中で決まりの案を作り、研修のあとに正式に決めると、受講者が決まりの理由まで理解した状態で使い始められます。決まりの作り方とひな型は「生成AIの社内ルールの作り方」にまとめています。
3. 自社の資料で答える形にする
一般的な答えしか返らないという不満は、AIが自社の資料を読めていないことから起きます。社内規程・手順書・過去の対応記録などをもとに答える仕組みにすると、答えが自社の事情に合い、根拠になった資料も確かめられます。AIの答えが間違っていないかを確かめる方法は「AIの間違い(ハルシネーション)はなぜ起きる?」で、社内資料で答えるAIの作り方は「社内AIの構築方法」で説明しています。
4. つまずきを集めて、決まりと資料に戻す
研修から2〜4週間たったころに、使ってみてうまくいかなかった所を集めます。指示文の書き方の問題なら型を直し、資料が足りないなら資料を足し、決まりが分かりにくいなら決まりを直します。研修を1回で終わらせず、つまずきを決まりと資料に戻す場を1回設けるだけでも、使い続ける人の数は変わってきます。
当社が自分の業務で分かったこと
当社は、自社の業務の多くをAIに任せており、作業の決まりを手順書にして運用しています。この手順書は約2か月で50回以上書き足しました。使い方を覚えることよりも、使いながら「ここはこう決めておく」を書き残し続けることのほうに手間がかかる、というのが実感で、研修のあとの4段目を重く見ているのはこの経験からです。
また、ベテランの頭の中にある知識をAIに聞き取らせる方法も、自社で試しています。架空の営業事務の業務で、前任者の役もAIが演じる形で1回試したところ、前任者に持たせた9つの知識のうち、理由まで引継書に残ったのは、表を自分で埋めた場合で3つ、AIが聞き取った場合で8つでした。試しは架空の業務でAI同士が行った1回だけですが、AIを「文章を作る道具」としてだけでなく「人から知識を引き出す聞き手」として使えることは、研修で扱う価値のある使い方だと考えています。試した手順とプロンプトは「業務引継書テンプレート」と「技術継承ができない理由と、ベテランが辞める前にAIで聞き取る方法」に載せています。
研修の題材を「自社の資料」にする
研修で残るものを増やすには、題材を自社の業務と資料にするのが近道です。研修の日に、自社の資料で答えるAIを実際に動かしてみると、受講者は「何にでも使える」ではなく「この業務のこの質問に使える」という形で持ち帰れます。
当社の「相棒AI」は、社内の資料をもとに質問に答え、答えの根拠にした資料を引用として示す会社専用のAIです。外に出せない資料を扱う場合は、社内に置くAI(ローカルLLM)で動かす形もあります。社内に置く形の考え方は「ローカルLLMとは?」で説明しています。
当社も、企業向けのAI研修を行っています。全社員向けの基礎、部門向けの業務活用、管理職向けの活用の決め方の3つから選べ、題材には御社の実際の業務と資料を使います。研修の日に、業務で使える指示文の型や、部門の資料で答えるAI、AIに任せる業務の一覧などが手元に残る形にしています。
あわせて読みたい:Claudeの使い方、AI法(AI推進法)とは
まとめ|AI研修は、研修のあとまで含めて選ぶ
AI研修の効果は、研修の日の分かりやすさよりも、研修のあとに使う場面・決まり・資料・相談先が用意されているかで決まりやすくなります。
- AI研修には「使い方」の研修と「業務に組み込む」研修があり、会社として効果を出すには後者まで計画する
- 対象は全社員・部門・管理職・開発者の4つに分け、それぞれの到達点を決める
- 選ぶときは、題材を自社の業務と資料にできるか、研修で何が残るか、情報の扱いを事前に決められるかを見る
- 研修のあとに使われなくなるのは、使う場面・使ってよい範囲・自社に合う答え・相談先が無いとき
- 使う業務を先に決め、決まりを作り、自社の資料で答える形にし、つまずきを集めて戻す
まずは、研修を検討する前に、部門ごとにAIを使ってみたい業務を1つずつ書き出してみてください。比べる研修の候補が、その業務を題材にできるかどうかで絞り込みやすくなります。
よくある質問
- AI研修とはどんな研修ですか?
- 社員が業務でAIを使えるようにするための研修です。生成AIの得意なことと苦手なこと、指示文(プロンプト)の型、社内の情報を扱うときの注意を学ぶ「使い方」の研修と、自社の業務のうちAIに任せる所を選び、資料で試して手順にする「業務に組み込む」研修があります。
- AI研修は誰に受けてもらえばよいですか?
- 全社員・部門の担当者・管理職・開発者の4つに分けて考えると選びやすくなります。全社員は安全に使い始めること、部門は任せる業務を決めること、管理職はどの業務にどう広げるかを決めることが到達点です。
- AI研修を選ぶときは何を比べればよいですか?
- 対象と到達点、題材、研修で残るもの、情報の扱い、形式、講師、研修のあとの7つです。特に、自社の業務と資料を題材にできるか、研修の日に持ち帰れる成果物があるかで差が出やすくなります。
- 研修のあとにAIが使われなくなるのはなぜですか?
- 使う業務が決まっていない、社内の情報を入れてよいか分からない、一般的な答えしか返らない、困ったときの相談先が無い、の4つが主な理由です。研修の前に使う業務と決まりを用意し、研修の数週間後につまずきを集めて決まりと資料に戻すと、使い続けやすくなります。
- 研修で社内の資料をAIに入れても大丈夫ですか?
- どの資料を使ってよいか、使うAIのサービスが入力内容をどう扱うかを、研修の前に研修会社と決めておきます。外に出せない資料は、社内に置くAI(ローカルLLM)で扱う方法もあります。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






