カスハラの録音は違法?告知・保存・使い道の決め方と、録り始めが間に合わない問題

カスハラ対策で受付や窓口のやり取りを録音するときの、無断録音の考え方、告知の文例、保存期間と使い道の決め方を解説します。問題が起きてから録り始めても間に合わない理由と、必要な場面だけを残す方法も紹介します。
2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務になり、受付や窓口で「何があったか」を残す手段として、録音を考える事業者が増えています。ところが、客の声を録音してよいのか、録音していることを伝えるべきか、どれだけの期間残すのかが決まらず、検討の途中で止まっている所も少なくありません。
しかも受付で起きる出来事は、問題が起きてから録り始めても、言われた言葉はもう残っていません。この記事では、受付に据え置く録音機器を開発した立場から、録音を始める前に決めておくことと、録り始めが間に合わない問題への備え方を整理します。
受付の録音は、告知をしたうえで目的を絞って行えば、多くの場合は大きな問題になりにくいと考えられています。厚生労働省の指針も、対処の例の一つに顧客等とのやり取りの録音・録画を挙げており、大事なのは、告知の仕方・残す範囲と期間・誰が何に使うかの3つを先に決めておくことです。
カスハラの録音が必要になる理由
カスタマーハラスメントの被害は、特定の業種に限った話ではなくなっています。UAゼンセンがサービス業の組合員33,133名を対象に行った調査では、直近2年間で被害にあったと答えた人が46.8%にのぼり、行為の内容は暴言が39.8%で最も多くなっています。被害にあった人の50.5%は「嫌な思いや不快感が続いた」と答えており、その場のやり取りだけでは終わらないことが分かります。
当社も、受付を持つ事業者から、理不尽な対応を受けたことを理由に辞めたいという申し出が出てくると聞きました。従業員は働く場所を失い、事業者は育てた人を失うことになるので、どちらにとっても大きな損失です。
こうしたなか、労働施策総合推進法の改正により、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務となりました。従業員が1人の事業者も対象で、義務の内容は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、発生後の迅速かつ適切な対応などです。
厚生労働省の指針は、対処の例の一つに顧客等とのやり取りの録音・録画を挙げています。録音そのものが義務づけられているわけではありませんが、相談を受けて対応するとき、最初に必要になるのは何があったのかを確かめることです。記録が無いと、対応は従業員の記憶と相手の言い分の突き合わせになり、相手と向き合った従業員が一人で説明を背負うことになります。
※UAゼンセンの調査はサービス業の組合員を対象とした調査で、全業種の平均ではありません。
出典:UAゼンセン「第3回カスタマーハラスメント対策アンケート調査」(2024年6月5日公表、回答33,133名)https://uazensen.jp/2024/06/05/100876//厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2026年10月1日施行)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
義務化の進め方と、指針が求める措置の全体は「カスハラ対策の義務化で企業がやること」にまとめています。
客の声を録音してよいか
相手に伝えずに会話を録音すること自体は、一般的には直ちに違法になるものではないと考えられています。ただし、録音の仕方や、録った音声を何に使うかによっては、プライバシーの侵害などが問題になる可能性があり、裁判で証拠として扱われるかどうかも事情によって変わります。
そのため受付で録音するなら、こっそり録るのではなく、録音していることを来訪者に伝え、目的を事実確認に絞っておく方が、来訪者にとっても事業者にとっても説明しやすくなります。録った音声には来訪者の声や話した内容が含まれるので、個人情報として扱い、管理の仕方を決めておくことも欠かせません。
気をつけること | 考え方の例 |
伝え方 | 録音していることを掲示などで来訪者に伝える |
目的 | 事実確認とその後の対応の検討に絞る |
使い方 | 目的の外で使わない。SNSなどに出さない |
管理 | 聞ける人を決め、期間を決めて消す |
ここに書いたのは一般的な考え方で、個別の事情によって判断は変わります。自社の運用が問題ないかは、弁護士など専門家に確かめてください。
録音を始める前に決める3つのこと
録音の機器を置くこと自体は、すぐにできます。止まりやすいのは、その後の運用で、告知の仕方・残す範囲と期間・誰が聞き何に使うかの3つを先に決めておくと、従業員も来訪者も迷わずに済みます。

告知の仕方と掲示の文例
来訪者への告知は、受付の見える所に掲示するのが基本です。掲示には、録音していること、録音の目的、記録の扱いを書いておくと、問われたときにも同じ説明ができます。当社の機器では、掲示とあわせて機器の画面にも「会話を録音しています」と表示し、音声での告知は行わない形にしています。
掲示の文例を、当社の案として載せます。そのまま使う前に、自社の運用に合っているかを専門家に確かめてください。
当窓口では、会話を録音しています。
録音は、ご来訪の方と従業員の間で行き違いがあったときに、
事実を確認し、適切に対応するために行います。
録音した内容は、上記の目的以外には使いません。
聞くことができるのは、当社の決められた担当者に限り、
定めた期間を過ぎたものは消去します。
ご理解とご協力をお願いいたします。残す範囲と保存期間
すべてのやり取りを残し続けると、管理する情報が増え、保管の負担も、来訪者への説明の負担も大きくなります。何も起きなかった日常のやり取りまで積み上げる必要は無いので、残すのは問題が起きた場面に絞り、残したものも期間を決めて消すようにします。
保存期間の長さは、事業の内容や、相談から対応までにかかる期間によって変わります。当社の機器では、開示の範囲と保管の期間を導入時に事業者と取り決めるようにしています。
誰が聞き、何に使うか
録った音声を聞ける人は、管理者や相談窓口の担当者など、決まった人に限ります。使い道は、事実確認とその後の対応の検討に絞り、従業員の評価や、来訪者を問い詰める材料には使わないと決めておきます。
録音は相手を責めるためのものではなく、従業員が一人で抱え込まず、後から事実に基づいて対応できるようにするための備えです。この位置づけを社内で共有しておくと、録音があることで従業員の気持ちも軽くなります。
決めたことは、掲示の文面だけでなく、社内の方針や相談窓口の手順にも書いておきます。担当者が替わっても同じ扱いができるようにしておけば、記録を聞くかどうか、誰に共有するかをその都度迷わずに済み、外部の専門家に相談するときも、決めた範囲の中で記録を渡せます。
問題が起きてから録り始めても間に合わない
受付で使う録音の方法として、まず思いつくのは、トラブルになりそうなときに従業員がボイスレコーダーやスマートフォンで録り始める形です。ところが、録音を始めようと判断できたときには、きっかけになった言葉はすでに過ぎています。
残るのは、こじれた後のやり取りだけになり、何が発端だったのかは結局分かりません。相手の前で録音の操作をすることが、さらに相手を刺激してしまうこともあります。
かといって、営業時間中ずっと録り続けて全部を残すと、前の節で触れたように保管と説明の負担が大きくなります。「起きてから録る」と「全部残す」の間に、録り続けておき、必要な場面だけを後から残す、という形があります。

録り続けて、必要な場面だけを残す方法
当社が開発した「さかのぼり録音」は、受付など場所を決めて据え置く音声録音機器です。映像は撮らず音声だけを扱い、常に残し続けるのではなく、必要な場面だけを残すことに絞って設計しました。
機器は常に直近の音声を録り続けていて、従業員が画面に触れたときだけ、その時点からさかのぼった分を保存します。さかのぼる長さは設定で変えられ、保存されなかった音声は決めた時間を過ぎたものから順に消えていくため、手元に残るのは画面に触れた場面だけです。
保存した記録はAIが要約し、音声とあわせて確認できます。ただし要約はあくまで判断の材料で、カスタマーハラスメントに当たるかどうかを判断するのは事業者です。動作中は画面に状態を表示するので、従業員は保存の操作ができたことをその場で確かめられます。

押した時点からさかのぼる形は、「現場で最初に困るのは、何があったか分からないことだ」という考えから決めました。起きてから録り始めるのでは遅く、全部を残し続けるのは負担が大きいので、その間を取る形です。掲示と画面の表示で録音していることを伝えておけば、理不尽な言動そのものが起きにくくなる抑止の効果も期待しています。
料金は、初期費用10万円(税抜)、月額9,800円(税抜)で、最低契約期間は1年間です。月額には、機器の提供と入れ替え、保存した音声の保管と要約が含まれます。掲示や社内向けの方針の文面づくり、相談窓口の代行、従業員向けの研修などは、社会保険労務士・弁護士などの専門家と連携して、オプションとして提供する予定です。
マニュアルの項目と基本方針の例文は「カスハラ対応マニュアルの作り方」で紹介しています。
まとめ|録音は、決めごとを先に置くと運用できる
受付の録音は、録音していることを伝え、目的を事実確認に絞り、残す範囲と聞ける人を決めておけば、従業員を守る備えとして運用できます。問題が起きてから録り始めても発端は残らないので、録り続けて必要な場面だけを残す形も選択肢に入れておくと、保管の負担を抑えながら記録を残せます。
- 録音していることは、受付の掲示で来訪者に伝える
- 使い道は事実確認とその後の対応の検討に絞り、聞ける人を決める
- 全部を残し続けず、残す範囲と期間を決めて消す
- 起きてから録るのでは間に合わないので、録り始めの仕組みを先に用意する
- 自社の運用が問題ないかは、弁護士など専門家に確かめる
デイワンでは、受付に据え置く「さかのぼり録音」の導入の申し込みを、2026年10月1日から事前受付ページで受け付けています。設置の時期や台数、設置場所は、お申し込みをいただいた事業者と個別に調整しますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
- 客の声を、相手に伝えずに録音してもよいですか。
- 一般的には直ちに違法になるものではないと考えられていますが、録り方や使い方によっては問題になることがあります。受付では掲示で録音していることを伝え、目的を事実確認に絞る方が説明しやすくなります。個別の判断は弁護士など専門家に確かめてください。
- 録音していることは、どうやって伝えればよいですか。
- 受付の見える所に、録音していること・目的・記録の扱いを書いた掲示を出すのが基本です。さかのぼり録音では、掲示とあわせて機器の画面に「会話を録音しています」と表示します。
- 録音はどれくらいの期間保存すればよいですか。
- 事業の内容や、相談から対応までにかかる期間によって変わります。全部を残し続けると管理の負担が増えるので、期間を決めて消すことをおすすめします。さかのぼり録音では、保管の期間を導入時に事業者と取り決めます。
- 録画(カメラ)ではなく録音を選ぶ理由はありますか。
- 受付のトラブルでは、何を言われたかが事実確認の中心になることが多く、さかのぼり録音は映像を撮らず音声だけを扱う設計にしています。残す情報を絞ることは、来訪者と従業員のプライバシーへの配慮にもなります。
- AIの要約だけで、カスハラかどうかを判断できますか。
- できません。要約は判断の材料で、カスタマーハラスメントに当たるかどうかは、音声も確かめたうえで事業者が判断します。
次に読む記事

AI導入の費用はいくら?相場と内訳、見積もりが膨らみやすい3つの所
記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






