カスハラ対応マニュアルの作り方|基本方針の例文と、入れておく7つの項目

カスハラ対応マニュアルの作り方を、厚生労働省の指針と企業マニュアルの項目に沿って解説します。そのまま下書きに使える基本方針の例文と、判断の目安・対応の流れ・記録の残し方の書き方も紹介します。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が事業主の義務になりました。方針を決めて従業員に伝えること、相談を受ける体制をつくること、起きたときに事実を確かめて対応することなどが求められ、従業員が1人の事業者も対象に含まれます。
手本になるのは厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」で、2026年9月に法改正を反映した改訂版が出ています。ただ、内容は裁判例や業種ごとの対応例まで含む厚い資料なので、受付を持つ店舗やクリニックの総務・店長が、ここから自社のマニュアルを書き起こすのは簡単ではありません。
マニュアルは、基本方針・判断の目安・対応の流れ・相談先・記録の残し方の順に、まず1枚で作ると現場で使えます。なかでも記録の残し方は項目名だけで終わりやすいので、何を・誰が・どう残すかまで決めておくと、起きたときに迷わずに済みます。
カスハラ対応マニュアルが要る理由
厚生労働省の指針は、事業主が講ずべき措置を大きく5つに分けています。方針の明確化と周知・啓発、相談に応じる体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、特に悪質なものへの抑止の措置、そしてプライバシーの保護と不利益な取扱いの禁止です。企業マニュアルはこれを10の措置に分けて整理しており、どれも講じなければならない法的な義務とされています。
指針は、方針と対処の内容を従業員に周知している例として、顧客等への対応に関するマニュアルにカスハラの内容と対処の内容を書いて周知することを挙げています。つまりマニュアルは、義務への対応を形にする手段の一つであり、同時に、受付で困ったときに従業員が見て動ける手順書にもなります。
マニュアルが無いと、起きたその場の判断が一人の従業員に任されがちです。上長を呼ぶのか、どこで話を打ち切るのか、警察に連絡してよいのかが決まっていなければ、対応した人が後から一人で説明を背負うことになります。
義務化の進め方と、指針が求める措置の全体は「カスハラ対策の義務化で企業がやること」にまとめています。
マニュアルに入れる7つの項目
指針と企業マニュアルが示す措置を、受付の現場で使う形に並べ直すと、次の7つにまとめられます。項目の名前は自社で言いやすいものに変えてかまいません。

項目 | 書くこと | 指針・企業マニュアルとの対応 |
1. 基本方針 | 毅然と対応し、従業員を守るという会社の考え | 方針の明確化と周知・啓発 |
2. 定義と判断の目安 | 何をカスハラとして扱うか、正当な申入れとの線 | カスハラの内容の周知 |
3. 対応の流れ | 一次対応から上長への引き継ぎまでの手順 | あらかじめ定めた対処の内容 |
4. 相談先 | 相談窓口の担当者と、相談したことで不利益を受けないこと | 相談体制の整備・不利益な取扱いの禁止 |
5. 記録と報告 | 何を、誰が、どう残し、誰に渡すか | 事実関係の確認・再発防止 |
6. 打ち切りと通報 | 退店を求める・電話を切る・警察へ通報する基準 | 対処の内容・悪質なものへの抑止 |
7. 見直し | 起きた事案をもとに方針や手順を直す時期 | 再発防止に向けた措置 |
指針は、カスハラを「顧客等の言動」「社会通念上許容される範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つの要素をすべて満たすものとしています。あわせて、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲のものは正当な申入れだと明記しているので、2の判断の目安ではこの線を最初に書いておくのが大切です。
企業マニュアルは判断の観点として、言動の内容が許容される範囲を超えるか、手段・態様が許容される範囲を超えるか、従業員の就業環境が害されていないか、の3つを挙げています。内容と手段のどちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得るとしているため、「要求は正当でも、言い方や時間が度を越えている」場面をどう扱うかも、目安の中で触れておくとよいでしょう。
指針は、対面だけでなく電話やSNSなどインターネット上の言動もカスハラに含まれるとしています。受付だけでなく電話を受ける部署があるなら、その場面も対象に入れておきます。
基本方針の例文
基本方針は、マニュアルの最初に置き、従業員にも来訪者にも見せられる文にしておきます。指針は、毅然とした態度で対応し、従業員を保護する旨の方針を明確にすることを求めており、顧客等に向けて周知することも被害の防止に効果的だとしています。
以下は、受付のある店舗やクリニックを想定した当社の案です。そのまま使うのではなく、自社の実情に合わせて書き換え、必要に応じて社会保険労務士・弁護士の確認を受けてください。
カスタマーハラスメントに対する基本方針
当社(当院)は、お客様からのご意見やご要望を、より良いサービスにつなげる大切な声として受け止め、誠実に対応します。
一方で、社会通念上許容される範囲を超える言動により、従業員の就業環境が害される行為は、カスタマーハラスメントとして扱い、従業員を守るために毅然とした態度で対応します。
【カスタマーハラスメントとして扱う主な行為】
・暴言、大声、威嚇、脅迫、人格を否定する発言
・長時間の拘束や、同じ要求の繰り返し
・土下座の要求など、社会通念上相当な範囲を超える要求
・暴力、物を投げる・壊すなどの行為
・従業員の写真や動画を無断で撮影し、SNS等へ投稿する行為
【当社(当院)の対応】
・従業員を一人で対応させず、責任者が引き継ぎます
・やり取りを記録し、事実を確かめたうえで対応します
・十分にご説明したうえで、なお要求が続く場合は、対応をお断りすることがあります
・犯罪に当たり得る行為には、警察や弁護士と連携して対応します
当社(当院)は、従業員が安心して働ける環境を守り、すべてのお客様に気持ちよくご利用いただけるよう努めます。
(制定日) 年 月 日 (事業者名・代表者名)挙げている行為は例であり、業種や来訪者の層によって起きやすいものは違います。障害のある方が差別的取扱いをしないよう求めることや、配慮を必要とする意思を伝えることは、指針でもカスハラに当たらないとされているので、方針の文面がそうした申し出まで退けるように読めないかも確かめておきます。
対応の流れの作り方
対応の流れは、受付の従業員が最初の数分で何をするかから書き始めます。企業マニュアルは初期対応の手順として、対象を明確にして限定的に謝罪する、状況を正確に把握する、現場監督者か相談窓口の担当者に情報を共有する、の3段を示しています。正当な申入れを即座にカスハラと決めつけないための順番なので、マニュアルでもこの順を崩さないようにします。

そのうえで、威圧的な言動など明らかにカスハラと判断される行為を受けたときは、一人で対応を続けず、すぐに責任者へ引き継ぐことを流れの中に書きます。指針は対処の内容の例として、管理監督者等へ直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り一人で対応させないこと、十分に説明してもなお要求が続く場合に一定の時間で退店を求めたり電話を切ったりすること、犯罪に当たり得る言動を警察へ通報することなどを挙げています。
小さな店舗や夜間の受付では、引き継ぐ責任者がその場にいないこともあります。その場合に誰へ電話するのか、つながらないときは何分で打ち切ってよいのかまで決めておくと、従業員が一人で判断を抱え込まずに済みます。
カスハラ対応の流れ(当社の案)
1. 一次対応(受付の担当者)
・不快な思いをさせた点に限って謝る(事実が分かるまで非は認めない)
・話を遮らずに最後まで聞き、要望と事実を確かめる
・威圧・暴言などが始まったら、記録を残し、すぐ責任者を呼ぶ
2. 引き継ぎ(責任者: /不在時の連絡先: )
・責任者が対応を代わり、担当者を相手から離す
・できる限り2人以上で対応する
3. 打ち切り
・十分に説明しても同じ要求が続くときは、( )分を目安にお断りし、退店を求める・電話を切る
4. 通報・相談
・暴行・傷害・脅迫など犯罪に当たり得る言動は、警察へ通報する
・法的な手続きが要りそうなときは、(相談先: )へ相談する
5. 報告(その日のうちに)
・記録を相談窓口へ渡す(下の「記録の残し方」を参照)空欄の時間や連絡先は、業種や体制によって適切な値が変わります。自社の実情に合わせて決め、必要に応じて社会保険労務士・弁護士の確認を受けてください。
記録の残し方を決める
多くのマニュアルで、記録は「記録・報告する」という一行で終わりがちです。けれども、相談を受けた側が次にするのは事実関係の確認であり、指針も、周囲の従業員から話を聞くことや、録音・録画などの客観的な証拠を確認することを例に挙げています。記録が無いと、その確認は本人の記憶と相手の言い分の突き合わせになってしまいます。
企業マニュアルは、カスハラが疑われる場合に、録音・録画、対応記録、時間の計測など、第三者が検証できる証拠を集めるよう示しています。研修の内容例にも「記録の作成方法」が入っており、記録の残し方は現場の従業員が身につけておくべき手順の一つとされています。

マニュアルには、次のような記録の欄をそのまま載せておくと、起きたときに書き漏れが減ります。これも当社の案なので、項目は自社の業務に合わせて足し引きしてください。
カスハラ対応記録(当社の案)
・日時: 年 月 日 時 分〜 時 分(対応にかかった時間: 分)
・場所:受付/電話/その他( )
・対応した従業員: 引き継いだ責任者:
・相手の情報:(分かる範囲で。氏名・連絡先・特徴)
・相手の要望:
・相手の言動:(言われた言葉は、できるだけそのまま書く)
・こちらの対応:(謝罪した点・説明した内容・お断りした時刻)
・証拠:録音あり/録画あり/なし 目撃した従業員:
・警察への通報:あり( 時 分)/なし
・対応した従業員の様子・申し出:
・記入者: 記入日:記録の扱いも決めておきます。指針は、録音・録画に当たって個人情報保護法などを守り、顧客等の個人情報を適切に扱うよう求めています。あわせて、相談した従業員のプライバシーを守る措置も義務とされているので、誰が記録を見られるのか、どれくらいの期間保管するのかをマニュアルに書いておきます。
録音は「起きてから」では間に合わない
記録のなかで一番難しいのが、言われた言葉そのものを残すことです。受付で録音しようと判断できたときには、問題の言葉はすでに過ぎていることが多く、メモも後から思い出して書くことになります。
当社は、受付に据え置いて使う音声録音機器「さかのぼり録音」を開発し、導入の受付をしています。常に直近の音声を録り続け、従業員が画面に触れた場面だけを、その時点からさかのぼって保存します。触れなければ音声は決めた時間を過ぎたものから消えていくため、手元に残るのはトラブルが起きた場面だけで、保存した記録はAIが要約し、音声とあわせて確認できます。
映像は撮らず音声だけを扱い、来訪者への告知は受付の掲示で行う前提です。要約はあくまで判断の材料で、カスハラに当たるかどうかの判断は事業者が行います。料金は初期費用10万円・月額9,800円(いずれも税抜・最低契約期間1年)で、掲示や方針の文面づくり、相談窓口の代行などは、社会保険労務士・弁護士などの専門家と連携して提供する予定です。
録音の告知・保存・使い道の決め方は「カスハラの録音は違法?告知・保存・使い道の決め方」で詳しく書いています。
1枚から始めて見直す
7つの項目を最初からすべて厚く書こうとすると、完成までに時間がかかり、その間は何も決まっていない状態が続きます。まずは基本方針と対応の流れ、記録の欄を1枚にまとめ、責任者の名前と連絡先、相談先を埋めて従業員に配るところから始めると、すぐに使える形になります。
指針は、方針と対処の内容を研修や講習で周知することも例に挙げており、企業マニュアルは中途入社の従業員やパート・アルバイトにも入社時に説明するよう勧めています。1枚にしておくと、こうした説明にもそのまま使えます。
見直しの時期も決めておきます。指針は、事案が起きたときに方針を改めて周知し、原因や背景になった商品・サービス・接客の問題を改善するなど、再発防止の措置を求めており、事案の内容や対応の経緯を記録して関係部門で共有し、再発防止に活かすことも考えられるとしています。カスハラが起きたときと、年に一度の定期の見直しの2つを決めておくと、マニュアルが書いたまま古くならずに済みます。
まとめ|項目に沿って1枚で作り、記録の残し方まで決める
カスハラ対応マニュアルは、厚生労働省の指針と企業マニュアルが示す措置に沿って、基本方針・判断の目安・対応の流れ・相談先・記録と報告・打ち切りと通報・見直しの7つを押さえれば、受付の現場で使える形になります。最初から厚い資料を作るより、1枚にまとめて配り、起きた事案をもとに直していく方が、現場に定着しやすくなります。
- 基本方針は、毅然と対応し従業員を守る考えを、従業員にも来訪者にも見せられる文で書く
- 判断の目安には、正当な申入れとの線と、電話やSNSも対象になることを入れる
- 対応の流れは、限定的な謝罪→状況の把握→責任者への共有の順を崩さない
- 記録は、何を・誰が・どう残し、誰が見られるかまで決める
- 起きたときと年に一度、方針と手順を見直す
例文やひな型は当社の案です。自社の実情に合わせて書き換え、必要に応じて社会保険労務士・弁護士の確認を受けてください。受付で起きたことを後から確かめられる形を整えたい場合は、さかのぼり録音の事前受付ページからお申し込みいただけます。
よくある質問
- カスハラ対応マニュアルは必ず作らなければいけませんか。
- 指針は、方針と対処の内容を定めて従業員に周知することを義務としており、マニュアルにまとめて周知することはその例の一つに挙げられています。形式は決められていないので、1枚の手順書から始めても構いません。
- 厚生労働省のひな型はありますか。
- 厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和8年度改訂版)に、措置の内容と実施例、対応例がまとまっています。自社のマニュアルは、その項目に沿って必要な部分を抜き出して作るのが進めやすい方法です。
- どこからがカスハラに当たりますか。
- 指針は、顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えていること、従業員の就業環境が害されることの3つをすべて満たすものとしています。苦情のすべてが当たるわけではなく、許容される範囲のものは正当な申入れです。
- 受付でのやり取りを録音してもよいですか。
- 指針は対処の例の一つに顧客等とのやり取りの録音・録画を挙げ、個人情報保護法などを守って扱うよう求めています。録音していることは掲示で伝え、保管期間や見られる人をあらかじめ決めておきます。
- 従業員が少ない事業者も対象ですか。
- 対策の義務は、従業員が1人の事業者も対象です。責任者が不在になりやすい場合は、誰に電話するか、何分で打ち切るかを先に決めておくと、従業員が一人で抱え込まずに済みます。
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記事を読むこの記事を書いた人

株式会社デイワン 代表取締役 月森 隼人
不動産コンサルタント、注文住宅やマンションなどの企画営業を経験し、大手広告代理店のデジタル部署にて、Web領域でのブランディングややディレクションなど上流から幅広く担当。






